【第6回】IT業界の退職金制度導入状況|業界別の導入率と特徴を比較
目次
同業他社はどうしてる?人事交流会への参加
「ユキさん、今度の人事交流会、一緒に行かない?」
ある日の午後、人事部の先輩から声をかけられました。人事交流会?そんなものがあるんだ。
「IT企業の人事担当者が集まる勉強会みたいなものよ。退職金制度の話題も出ると思うから、いい機会じゃない?」
確かに!これまで制度の仕組みや費用、節税効果について勉強してきたけど、実際に同業他社がどんな制度を導入してるのか、すごく気になってた。
「ぜひ参加させてください!」
退職金制度について調査を始めてから数ヶ月。社内での検討も進んでいるけど、他社の事例を知ることで、もっと説得力のある提案ができるかもしれない。
交流会の会場は、都内のコワーキングスペース。受付を済ませると、すでに20人くらいの人事担当者が集まっていました。名刺交換をしながら話を聞くと、従業員50人から500人規模のIT企業の方々が多いみたい。
「うちも退職金制度の導入を検討してるんです」と言うと、みんな興味深そうに話を聞いてくれました。
業界別の退職金制度導入率データ
交流会では、まず業界全体の導入状況についての情報交換から始まりました。
「うちの会社、まだ退職金制度がないんですけど、IT業界では珍しいんでしょうか?」
私の質問に、ベンチャー企業の人事マネージャーが答えてくれました。
「うーん、珍しくはないけど、最近は導入する会社が増えてきてますね。うちも3年前までなかったし」
「そうそう、IT業界って歴史が浅い会社が多いから、退職金制度がない会社も結構あるよ」と別の参加者。
「でも、採用で不利になってきてるのは確かですね」
令和5年就労条件総合調査による導入率
「具体的な数字ってどのくらいなんだろう?」と誰かが調べ始めました。
退職給付制度がある企業の割合(令和5年)
全体/企業規模 | 導入率 |
---|---|
調査産業計 | 74.9% |
1,000人以上 | 90.1% |
300~999人 | 88.8% |
100~299人 | 84.7% |
30~99人 | 70.1% |
「全体で74.9%か…うちみたいに150人規模だと、8割以上の会社が導入してるってことだね」
「IT業界単独のデータはないけど、情報通信業は比較的新しい産業だから、他の伝統的な産業と比べると導入率は低めかもしれないね」
「でも、最近は変わってきてますよ」と、従業員300人規模の企業の人事部長が言いました。
「5年前は『退職金?そんなの大企業の話でしょ』って雰囲気だったけど、今は人材獲得競争が激しくなって、福利厚生の充実は避けて通れない課題になってます」
退職給付制度の形態別内訳
「導入している企業の中でも、制度の形態はバラバラなんですよ」
退職給付制度の形態(退職給付制度がある企業=100)
制度の形態 | 企業割合 |
---|---|
退職一時金制度のみ | 69.0% |
退職年金制度のみ | 9.6% |
両制度併用 | 21.4% |
退職一時金制度の支払準備形態(複数回答)
- 社内準備:56.5%
- 中小企業退職金共済制度:42.0%
- 特定退職金共済制度:9.9%
退職年金制度の支払準備形態(複数回答)
- 確定拠出年金(DC・企業型):50.3%
- 確定給付企業年金(DB):44.3%
「やっぱり退職一時金制度が主流なんですね」と私。
「そうですね。でもIT業界は少し違う傾向があるんです」とFinTech企業の担当者が続けました。
IT企業特有の人材流動性と退職金制度の関係
「IT業界って、転職が当たり前じゃないですか。そんな環境で退職金制度って意味あるんですか?」
Web系スタートアップの人事担当者からの率直な質問。これ、私も疑問に思ってたことだ。
「それがね、逆に差別化要因になるんですよ」
従業員200人のSaaS企業の人事責任者が経験を語ってくれました。
人材流動性が高い業界だからこその価値
「うちは3年前に確定拠出年金を導入したんですが、それ以降、離職率が明らかに下がりました。特に30代以降の中堅層の定着率が改善したんです」
別の参加者も続けます。
「IT業界の特徴として、若い頃は転職でキャリアアップする人が多い。でも、30代半ばくらいから『そろそろ腰を据えたい』って考える人が増えるんです。その時に、退職金制度があるかないかは大きな判断材料になりますね」
IT業界における離職率の実態
「実際のデータを見ると、こんな感じです」
ある企業の人事マネージャーが、業界の離職率データを共有してくれました。
産業別離職率(令和5年雇用動向調査より)
産業 | 離職率 | 特徴 |
---|---|---|
情報通信業 | 12.8% | IT業界を含む |
宿泊業,飲食サービス業 | 26.6% | 最も高い |
製造業 | 9.7% | 比較的低い |
金融業,保険業 | 10.5% | 安定的 |
全産業平均 | 15.0% | – |
「IT業界は全産業平均よりは低いんですね」と私。
「でも、優秀な人材ほど引き抜かれやすいんです。だから質の高い人材の定着には、退職金制度のような長期インセンティブが重要なんです」
ポータビリティの重要性
「IT業界で退職金制度を導入するなら、ポータビリティは重要なポイントですよ」
FinTech企業の人事マネージャーが説明してくれました。
「ポータビリティって何ですか?」私が質問すると、丁寧に説明してくれました。
「転職しても、積み立てた退職金を持ち運べる仕組みのことです。確定拠出年金なら、転職先の企業型DCやiDeCoに移管できます。これがあるから、転職が多い業界でも導入する意味があるんです」
「中退共は持ち運べないんですか?」
「中退共は、転職先も中退共に加入している企業なら通算制度がありますが、IT業界だと加入企業が少ないから、実質的に持ち運べないことが多いですね」
IT企業の規模別退職金制度|スタートアップ・中小・大手の選び方
交流会の後半は、グループディスカッションの時間。企業規模別にグループを作って、それぞれの導入状況を共有しました。
従業員50人未満のスタートアップ
「正直、退職金どころじゃないです」
創業3年目のAIスタートアップの担当者が本音を漏らしました。
「でも、採用面接で必ず聞かれるんですよね…『退職金制度はありますか?』って」
「それより給与を上げてあげたいけど、それも厳しくて…」
「うち、同じ状況だったから選択制DCを入れたよ」
別のスタートアップの担当者が体験を共有。
「選択制DC?」
「会社から新たに退職金の原資を出す必要がなくて、希望する従業員だけが自分の給与から積み立てる仕組み。税金や社会保険料が減るメリットがあるから、実質的な手取りの減少は抑えられるんだ」
「へー、コストをかけずに企業年金制度が導入できるんだ」
「しかも『退職金制度あり』って求人票に書けるから、採用でのアピールにもなるし」
従業員50-200人の成長企業
私たちのグループは、ちょうどうちの会社と同じくらいの規模の企業が集まりました。
「うちは選択制DBを導入してます。YUKINつみたてDBプランをベースに」
「選択制DB?」私が聞くと、
「選択制の確定給付企業年金のことです。従業員が給与の一部を退職金として積み立てるか、そのまま給与として受け取るか選べる仕組み。会社の拠出額を業績に連動させたり、個人の成果に応じたインセンティブ設計もできる。すごく柔軟な制度設計ができるんです」
「へー、DBなのにそんな柔軟性があるんだ」
別の企業の担当者も続けます。
「うちも似たような仕組みです。基本は会社拠出だけど、従業員が希望すれば給与から追加で積み立てもできる。IT企業って業績変動が大きいから、この柔軟性は本当に助かってます」
「なるほど、選択制なら会社の負担を抑えながら、従業員のニーズにも応えられるんですね」
従業員200人以上の中堅・大手
大手企業グループの話も興味深かったです。
「うちは元々退職一時金制度だけだったんですが、今は複数制度を組み合わせてます」
「具体的にはどういう組み合わせなんですか?」
「退職一時金をベースに、DCを追加しました。DCは会社が拠出して、従業員が運用商品を選ぶ形です。さらに選択制DBも導入して、これは従業員が自分の給与から追加で積み立てたい人向けの制度です」
「なるほど、会社拠出と従業員の選択制を明確に分けてるんですね」
「そうです。会社からの退職金は退職一時金とDCでしっかり確保。その上で、もっと老後資金を準備したい従業員向けに選択制DBを用意してます。会社拠出分に加えて、自助努力もサポートする形ですね」
「コストもかなりかかるのでは?」
「選択制DBの部分は従業員の給与からの積立なので、会社の追加負担はありません。むしろ社会保険料の会社負担分が少し減るくらいです。それ以上に、離職率が下がって採用・教育コストが大幅に削減できました。年間2,000万円以上のコスト削減効果があります」
「DCにマッチング拠出を導入する方法もありますが、うちは選択制DBで従業員の追加積立ニーズに応えてます。税制優遇も受けられるので、従業員にもメリットがあります」
大手IT企業の退職金制度の進化
- 第1段階:退職一時金制度(会社拠出の基本)
- 第2段階:DC追加(会社拠出で運用は従業員が選択)
- 第3段階:選択制DB導入(従業員の自主的な追加積立)
私はノートを見返しました。スタートアップは選択制DCでコストゼロ導入、中規模は選択制DBで柔軟な制度設計、大手は選択制を含む複数制度で従業員に選択肢を提供…。
「選択制」がどの企業規模でもキーワードになってる。これは間違いなくトレンドだ。うちの会社も、まずは選択制から検討してみる価値がありそう。
退職金制度導入による採用競争力の変化
「実際、退職金制度を導入して採用に効果ありました?」
私の質問に、複数の企業から具体的な成果が共有されました。
応募者数と質の変化
「求人票に『退職金制度あり』って書けるようになってから、応募数が1.5倍になりました」
ゲーム開発会社の人事担当者の話に、みんな身を乗り出しました。
「特に、経験者採用で効果が大きかったです。家族持ちのエンジニアとか、安定志向の人材が応募してくれるようになって」
「うちも似たような経験があります。以前は20代前半の応募者ばかりだったのが、30代の経験豊富な人材も応募してくれるようになりました」
内定承諾率の向上
「内定辞退が減ったのが一番の効果でした」
SaaS企業の採用マネージャーが続けます。
「複数内定をもらった候補者が、最終的にうちを選ぶ理由として『福利厚生の充実』を挙げることが増えました。給与だけじゃ差別化できない時代なんですよね」
採用コストの削減効果
「数字で見ると、どんな変化があったんですか?」
ある企業が実際の変化を共有してくれました。
「うちの場合、応募者数が1.5倍になって、内定承諾率も上がりました。結果的に採用単価が2-3割削減できたんです」
「それは大きいですね」
「そうなんです。応募者の質が上がって、内定承諾率も上がったので、結果的に採用コストが削減できました。退職金制度への投資は十分回収できてます」
制度選択の決め手|なぜその制度を選んだのか
グループディスカッションの最後に、それぞれの企業がなぜその制度を選んだのか、決め手を聞いてみました。
確定拠出年金(DC)を選んだ理由
「転職が多い業界だから、ポータビリティを重視しました」
「会社の追加負担リスクがないのが決め手でした。IT業界は浮き沈みが激しいので…」
「若い従業員が多いので、投資に興味がある人が多かった。自分で運用できるDCがフィットしました」
DC導入企業の特徴
- 平均年齢が若い(20代後半~30代前半)
- 転職を前提としたキャリア観
- 投資リテラシーが比較的高い
- 業績変動リスクを抑えたい
中退共を選んだ理由
「とにかくシンプルで始めやすかった。助成金も魅力的でした」
「管理の手間がかからないのがよかった。人事部門が少人数なので」
「ただ、上限が月3万円なのがネック。将来的には他の制度への移行も検討してます」
中退共のメリット・デメリット整理
メリット | デメリット |
---|---|
新規加入助成がある | 掛金上限が月3万円 |
管理が簡単 | 短期退職は掛け捨て |
国の制度で安心 | 懲戒解雇でも減額不可 |
少額から始められる | ポータビリティが限定的 |
確定給付企業年金(DB)を検討中の理由
「従業員の安心感を重視したい。運用リスクを従業員に負わせたくない」
「他社との差別化要因にしたい。IT業界でDBは珍しいから」
「最近、少額から始められるDBプランがあると聞いて。YUKINつみたてDBプランとか、月1,000円からできるらしいですよ」
「確かに、DBって大企業のイメージでしたけど、中小企業向けのプランも出てきてるんですね」
IT業界特有の課題と対策
交流会も終盤に差し掛かり、IT業界特有の課題についても議論が深まりました。
リモートワーク時代の退職金制度
「うち、フルリモートの社員が半分以上なんですけど、退職金制度の説明会とかどうしてます?」
「オンラインセミナーを定期開催してます。録画も残して、いつでも見られるようにしてます」
「個別相談もオンラインで対応。むしろ対面より相談しやすいって声もありますよ」
副業・複業時代への対応
「副業OKの会社も増えてるでしょ?退職金制度との兼ね合いはどうしてます?」
「うちは本業の勤務時間に応じて掛金を設定してます。週3日勤務なら掛金も60%みたいな」
「選択制DCにして、本人が掛金を決められるようにしてる会社もありますね」
スタートアップ特有の問題
「ストックオプションがあるから、退職金はいらないって考えもあるけど…」
「でも、ストックオプションは不確実性が高い。退職金制度は確実性のあるベネフィットとして価値がありますよ」
「両方あることで、リスクとリターンのバランスが取れるんです」
業界トレンドの変化
「最近は、スタートアップでも退職金制度を導入する動きが出てきてますよ」
参加者の一人が続けました。
「人材獲得競争が激化する中で、『将来の安心』を提供できることが差別化要因になってきてるんです。特に30代以降の経験豊富な人材を採用する際には重要なポイントになります」
「確かに、IT企業も成熟してきて、『ベンチャーだから退職金なし』という時代じゃなくなってきましたね」
別の参加者も同意します。
「大手IT企業では独自の退職金制度を作ったり、中堅企業では選択制を活用したり。画一的な制度じゃなくて、各社の企業文化や従業員構成に合わせた制度設計が増えてます」
確かに、それぞれの会社に合った制度を作ることが大事なんだな。
まとめ:IT業界における退職金制度の可能性
交流会から帰る道すがら、今日学んだことを整理してみました。
IT業界の退職金制度について分かったこと
✅業界の現状
- 全体の退職金制度導入率は74.9%(令和5年調査)
- 企業規模が小さいほど導入率は低下(30-99人で70.1%)
- IT業界は人材獲得競争の激化で導入企業が増加中
- 退職一時金制度が主流だが、DCの導入も進む
✅IT業界特有の課題と対策
- 人材流動性が高い → ポータビリティのある制度(DC)が人気
- 業績の変動が大きい → 選択制など柔軟な制度を選ぶ傾向
- 若い従業員が多い → 投資教育とセットで導入
- リモートワーク → オンラインでの制度説明・相談体制
✅導入効果の期待値
- 応募者数の増加
- 内定承諾率の向上
- 30代以降の中堅層の定着
- 採用コストの削減
✅制度選択のポイント
- DC:ポータビリティと運用の自由度重視
- 選択制DC/DB:会社の追加負担なしで導入可能
- 中退共:シンプルさと助成金重視(通常は月5,000円から)
- DB:従業員の安心感と差別化重視(月1,000円から始められるプランも)
うちの会社(IT企業、従業員150人)の場合、どの制度がベストなんだろう?
人材の流動性を考えるとDCかな…でも、従業員の安心感を重視するならDBも魅力的。選択制なら会社の負担を抑えながら始められそう。
IT業界でも退職金制度は『あって当たり前』になりつつある。この流れに乗り遅れないよう、自社に合った制度を検討する時期に来ているのかもしれない。
今度は失敗事例も含めて、もっと深く研究してみよう。成功例だけじゃなく、失敗から学ぶことも多いはずだから。

プロフィール
名前: ユキ
年齢: 24歳(第1回スタート時)
所属: IT企業 人事部(従業員150名規模)
中小企業の人事担当者として、従業員の幸せと会社の成長を両立させる制度づくりに挑戦中
【ご注意】 本記事は、中小企業の人事担当者「ユキ」の成長を描いたフィクションです。登場する企業名、人物、具体的な数値変化の事例などは、説明をわかりやすくするための創作です。
ただし、以下の情報は実際のデータに基づいています:
- 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」のデータ
- 中小企業退職金共済制度の掛金と助成金
- 退職金制度の仕組みや種類
- 法令・税制に関する情報
実際の効果は企業の規模、業種、地域、その他の要因により異なります。退職金制度の導入を検討される際は、専門家にご相談の上、自社の状況に応じた制度設計を行ってください。
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よくあるご質問
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IT業界の転職率が高くても退職金制度を導入すべき理由は?
転職が多い業界だからこそ、差別化要因として重要です。
特に30代以降の経験豊富な人材の確保には効果的。ポータビリティのある確定拠出年金(DC)なら、転職時も無駄になりません。 -
スタートアップでも退職金制度は導入できる?
もちろん、可能です。
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