社会保険料は4月から6月で決まる|2026年度版・経営者向け解説
4月から6月の給与が、その年9月から始まる1年間の会社負担を事実上決めることを、どこまで意識されているでしょうか。
社会保険料は、4月から6月に支給された報酬の平均から算定される「標準報酬月額」を基準に決まります。その結果は、その年の9月から翌年8月までの12ヶ月間にわたって、会社負担の法定福利費として固定されます。
本記事では、社会保険料が4月から6月の給与でどう決まるのかという基本知識から、2026年度の料率改定・子ども・子育て支援金の新設を反映した最新の動向について解説します。
目次
4月から6月の給与で決まる「年間法定福利費」
毎年4月から6月の3ヶ月間は、その年9月から翌年8月までの社会保険料を決定する「定時決定」の対象期間です。経理・人事の実務論点として語られることが多い一方で、会社経営の視点では、この3ヶ月に支給された給与が「年間法定福利費の総額」を事実上決めることになります。
具体的な仕組みは次のとおりです。
事業主は7月1日時点で在籍する全被保険者について、4月から6月の3ヶ月間に支給された報酬月額を算定基礎届として届け出ます。この届出内容に基づいて決定された標準報酬月額が、その年の9月から翌年8月までの12ヶ月間、保険料計算の基礎として適用されます。
社会保険料は、標準報酬月額に各保険料率を乗じて算出され、被保険者と会社で折半して負担します。2026年度の東京都における料率の合計は、40歳以上の従業員で30.00%、40歳未満で28.38%です(料率の内訳は次章で解説)。給与の約15%が、会社が追加で負担する人件費です。
たとえば従業員30名、平均標準報酬月額30万円の会社では、1人あたりの月額会社負担は約4.5万円。これが30名分で月間約135万円、年間では約1,620万円に達します。
標準報酬月額の算定ルール(2026年度版)
標準報酬月額とは、被保険者が受ける月額報酬を等級区分したもので、健康保険では1〜50等級、厚生年金保険では1〜32等級に分かれています。社会保険料は、この標準報酬月額に各保険料率を乗じて算出されます。
算定の対象となる「報酬」については、下記の表をご参照ください。
| 区分 | 主な項目 | 算定対象 |
|---|---|---|
| 固定的賃金 | 基本給、役付手当、家族手当、住宅手当、通勤手当 | ✅ 対象 |
| 変動的賃金 | 残業手当、休日出勤手当、歩合給 | ✅ 対象 |
| 現物給与 | 社宅貸与、食事の提供(基準額超過分) | 一部対象 |
| 賞与(年3回以下) | 通常の賞与、決算賞与など | ❌ 別建てで計算 |
| 賞与(年4回以上) | 同じ性質の賞与を年4回以上、かつ就業規則等で定めている場合 | ✅ 標準報酬月額に算入 |
| 臨時の給付 | 結婚祝い金、出産祝い金、見舞金 | ❌ 対象外 |
| 企業年金拠出金 | 選択制確定給付企業年金などへの拠出額 | ❌ 対象外 |
賞与については、社会保険上は支給回数によって扱いが分かれます。
年3回以下の賞与は標準賞与額として別建てで保険料が計算されますが、年4回以上を就業規則等で定めて支給している場合は「賞与に係る報酬」として標準報酬月額に組み込まれる仕組みです。なお、性質の異なる賞与(通常賞与3回+決算賞与1回など)の合計は年4回のカウントには含まれません。
2026年度(令和8年度)の東京都における協会けんぽの保険料率は、以下のとおりです。2026年3月分(4月納付分)から適用されています。
| 保険種別 | 料率(労使合計) | 備考 |
|---|---|---|
| 健康保険料 | 9.85% | 都道府県により異なる |
| 介護保険料 | 1.62% | 40歳以上64歳までの被保険者 |
| 厚生年金保険料 | 18.3% | 全国一律 |
| 子ども・子育て支援金 | 0.23% | 2026年4月分から新設 |
| 合計(40歳未満) | 28.38% | 会社負担はその半額 |
| 合計(40歳以上) | 30.00% | 会社負担はその半額 |
なお、2026年度からは子ども・子育て支援金が新設されています。
標準報酬月額が決まる4つのタイミング
標準報酬月額は、定時決定以外にも複数のタイミングで見直されます。経営者として押さえておきたい4つのタイミングは以下のとおりです。
| 決定の種類 | きっかけ・条件 | 反映開始時期 |
|---|---|---|
| 資格取得時(入社) | 入社時に見込まれる報酬月額で決定 | 入社月分を翌月支給給与から天引き |
| 定時決定(算定基礎) | 毎年4〜6月の報酬平均で年1回見直し | 9月分〜翌年8月分まで適用 |
| 随時改定 | 固定的賃金の変動後3ヶ月平均が、従前と2等級以上の差 | 変動月から4ヶ月目の分から適用 |
| 育休・産休終了時 | 終了後3ヶ月平均が、従前と1等級以上の差 | 育休終了日の翌日が属する月の4ヶ月目から適用 |
ここで押さえておきたいのは、随時改定は「固定的賃金の変動」がなければ発生しないという点です。残業手当や皆勤手当など非固定的賃金が一時的に増減しても、随時改定は発生しません。基本給や役付手当などの固定的賃金が変わらない限り、定時決定までの間、保険料は固定されます。
なお、定時決定において算定が困難な場合(病気欠勤等で4〜6月に報酬を受けない、支払基礎日数が3ヶ月とも17日未満など)や著しく不当な場合(給料の遅配、ストライキによる賃金カット、季節的な報酬変動が例年発生する場合など)には、通常とは別の方法で報酬月額が算定されます。
会社負担はいくら?|社会保険料負担のインパクト
ここでは2026年度の東京都料率を使い、40歳以上の従業員を前提に、標準報酬月額の等級が会社負担にどう影響するかを試算します。
1人あたりの年間会社負担(2026年度、東京都、40歳以上)
| 健保等級 | 標準報酬月額 | 月額会社負担 | 年間会社負担 |
|---|---|---|---|
| 20等級 | 26万円 | 約39,000円 | 約468,000円 |
| 21等級 | 28万円 | 約42,000円 | 約504,000円 |
| 22等級 | 30万円 | 約45,000円 | 約540,000円 |
| 23等級 | 32万円 | 約48,000円 | 約576,000円 |
| 24等級 | 34万円 | 約51,000円 | 約612,000円 |
| 25等級 | 36万円 | 約54,000円 | 約648,000円 |
| 26等級 | 38万円 | 約57,000円 | 約684,000円 |
中堅レンジ(月給20〜40万円程度)では、標準報酬月額は約2万円刻みで等級が変わります。等級が1つ上がるごとに、会社負担は1人あたり年間約36,000円ずつ増えていきます。
続いて、企業規模別に、平均等級が1つ上がったときの会社負担インパクトを見てみます。
規模別・平均等級が1つ上がったときの会社負担(2026年度)
| 従業員数 | 平均22等級 (月額30万円) | 平均23等級 (月額32万円) | 会社負担の差額 |
|---|---|---|---|
| 10名 | 約540万円 | 約576万円 | + 約36万円 |
| 30名 | 約1,620万円 | 約1,728万円 | + 約108万円 |
| 50名 | 約2,700万円 | 約2,880万円 | + 約180万円 |
| 100名 | 約5,400万円 | 約5,760万円 | + 約360万円 |
平均30万円の給与平均の場合、会社全体の平均等級が1つ上がるだけで、年間数十万円から数百万円の会社負担増となるケースがあります。
2026年度の制度改定
社会保険料の料率は毎年見直されますが、2026年度(令和8年度)の改定では新たに子ども・子育て支援金が設けられ、以下の料率となりました。
2025年度 vs 2026年度の料率比較(東京都・協会けんぽ)
| 項目 | 2025年度 | 2026年度 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 健康保険料率 | 9.91% | 9.85% | ▲ 0.06pt |
| 介護保険料率 | 1.59% | 1.62% | + 0.03pt |
| 子ども・子育て支援金率 | — | 0.23% | 新設 |
| 厚生年金保険料率 | 18.3% | 18.3% | 据え置き |
| 合計(40歳未満) | 28.21% | 28.38% | +0.17pt |
| 合計(40歳以上) | 29.80% | 30.00% | +0.20pt |
全国健康保険協会「令和8年度の協会けんぽの保険料率は3月分(4月納付分)から改定されます」
東京都の健康保険料率そのものは引き下げとなった一方で、介護保険料率の引き上げと「子ども・子育て支援金」の新設により、トータルでは負担増となります。
従業員30名、平均月額30万円の構成で試算すると、2026年度の年間会社負担増は約10万円規模になります。料率の上昇幅自体は0.17〜0.20pt程度に留まりますが、規模が大きくなるほど影響額は比例して拡大します。
子ども・子育て支援金は、こども家庭庁の子ども・子育て支援制度の財源として2026年4月分から新設された負担です。
法定福利費の抑制策
社会保険料の仕組みを理解したうえで、経営者・会社が取れる法定福利費の抑制策をご紹介します。それぞれの特性を整理し、会社の状況に応じた選択肢を検討してみてください。
1 4月から6月の業務配分を見直す
最もシンプルで即効性のある対策です。業務繁忙期が4月から6月に集中している場合、業務分担や人員配置を年間で見直すことで、結果として4月から6月の残業が抑えられ、標準報酬月額の等級上昇が発生しにくくなります。ただし、業務の性質上、配分の見直しが難しい業種では効果が限定的です。
2 固定的賃金改定のタイミングを4月以降にずらす
昇給や各種手当の改定を4月に実施する企業が多い傾向にありますが、これを7月以降に変更することで、当年の定時決定への影響を回避できます。ただし、翌年の4〜6月には新しい給与額で算定されるため、効果は12ヶ月分の社会保険料負担の上昇を遅らせるにとどまります。
3 選択制退職金制度を導入する
選択制退職金制度は、従業員が給与の一部を企業年金基金への拠出金として積み立てる仕組みで、拠出分は標準報酬月額の算定対象外となります。会社負担の社会保険料が構造的に軽減されると同時に、従業員側も社会保険料・所得税・住民税の軽減により手取りが増加します。
| 対策 | 負担軽減効果 | 実施難易度 | 継続性 |
|---|---|---|---|
| 業務配分見直し | 業務削減量に応じて | 軽い | 業務次第 |
| 改定時期変更 | 限定的 | 中程度 | 高い |
| 選択制退職金制度 | 掛金に応じて | 中程度 | 高い |
業務配分の見直しと固定的賃金改定時期変更の効果は、基本的に当年の定時決定に対するものに留まります。一方、選択制退職金制度は、一度導入すれば、構造的に社会保険料の負担が下がり続ける点で、長期的な人件費戦略として位置づけられます。
選択制退職金制度の試算を見てみます。
当社が提供する「YUKINつみたてDBプラン(選択制確定給付企業年金制度)」を例に試算すると、従業員が月5万円を拠出金として積み立てる場合、標準報酬月額が1〜2等級下がり、社会保険料(労使合計)は月額約1.5万円減少します。30名が加入した場合、会社負担の法定福利費は年間約270万円軽減される計算です。従業員側も手取りが月額約7,500円増え、将来の退職金原資が積み立てられるため、福利厚生としての訴求力も高まります。
また、選択制退職金制度は、従業員自身が加入の有無を選べる仕組みです。給与を一律に下げる施策ではないため、従業員の理解を得やすく、無理なく導入できる点が中小企業にも適しています。

YUKINつみたてDBプラン
会社の掛金負担ゼロで導入できる、中小企業向けの選択制退職金制度です。社会保険料の削減効果もあり、企業・従業員の双方にメリットがあります。
まとめ
社会保険料は、4月から6月の給与平均を基準に1年分の会社負担が決まります。従業員30名規模の中小企業でも、会社負担は年間1,600万円超に達し、給与の約15%を占める構造的コストとなります。
2026年度は、東京都で健康保険料率が引き下げとなる一方、介護保険料率の引き上げと子ども・子育て支援金の新設により、トータルでは負担増となります。
この環境下で経営者が取れる備え方は、業務配分の見直し・固定的賃金改定の時期変更・選択制退職金制度の導入の3つです。
短期的な対策である業務配分の見直しや固定的賃金の改定時期を見直すことに加え、構造的な負担軽減をもたらす選択制退職金制度を組み合わせることで、給与を上げずに従業員の手取りを増やし、会社負担も抑える効果が期待できます。
4月から6月の給与の動向を理解することは、人件費を考えるうえでも非常に重要です。
よくあるご質問
4月から6月の給与を下がるようにコントロールできるのでしょうか?
給与は就業規則や雇用契約、労働実態に基づいて結果として発生するものであり、社会保険料対策を目的に一方的に減給することは労働基準法上の問題となる可能性があります。
経営者が取れる備え方は、業務配分の見直しによる残業の自然な適正化、固定的賃金改定時期の見直し、選択制退職金制度の導入といった、合法かつ従業員の理解を得られる手段に限られます。4月に昇給した場合、社会保険料はいつから上がりますか?
定時決定による新しい標準報酬月額は、その年の9月分から適用されます。
給与天引きは翌月控除が一般的なので、10月支給給与から新しい保険料が反映されます。
ただし、固定的賃金の変動で従前と2等級以上の差が生じた場合は、随時改定の対象となり、変動月から4ヶ月目から適用される点にご注意ください。
賞与は社会保険料にどう影響しますか?
年3回以下の賞与は、月々の給与とは別に「標準賞与額」として社会保険料が計算されます。
標準賞与額は1回の支給につき健康保険で573万円、厚生年金で150万円の上限がありますが、それまでは賞与額に応じて保険料が発生します。
なお、年4回以上の賞与を就業規則等で定めて支給している場合は、賞与に係る報酬として標準報酬月額に組み込まれます。役員報酬と標準報酬月額の関係は?
役員も社会保険の被保険者であるため、役員報酬も標準報酬月額の算定対象となります。
役員報酬は法人税法上、原則として事業年度開始から3ヶ月以内に決定し、以降は変更できません。
3月決算の法人であれば、4〜6月の役員報酬改定がそのまま定時決定(4〜6月平均)に反映されるため、社会保険料への影響を意識した改定設計が可能です。
一方、決算月が異なる場合は、役員報酬改定のタイミングと定時決定の関係性も変わってきます。選択制退職金制度を利用すると、将来の年金は減りますか?
標準報酬月額が下がれば、将来の厚生年金、傷病手当金、出産手当金、雇用保険の基本手当などの給付額も影響を受けます。
ただし、拠出金は退職時に退職一時金または年金として受給でき、退職所得控除が適用されるため、税制優遇を受けながら退職金原資を準備できるメリットがあります。
公的給付の減少分と、選択制退職金制度による手取り増・退職金積立のメリットをトータルで比較検討することが重要です。









