確定拠出年金(DC)とは|中小企業における導入ガイド

確定拠出年金(DC:Defined Contribution)とは、企業や個人が掛金を拠出し、従業員自身が運用指図を行って資産を形成する年金制度です。中小企業にとって、従業員が運用リスクを負う代わりに将来の負担が予測可能となるため、予算管理がしやすい制度として注目されています。

確定拠出年金の最大の特徴は「ポータビリティの高さ」です。転職時でも積み立てた資産を次の会社に持ち運べるため、終身雇用が当たり前ではない現代の働き方にマッチした制度といえます。

また、税制優遇も手厚く、拠出時・運用時・受給時の3段階で優遇措置があります。

企業の退職金制度全体については「中小企業の退職金制度完全ガイド」で詳しく解説していますが、この記事では確定拠出年金に特化して、制度の仕組みから導入時のポイントまで分かりやすく解説していきます。

確定拠出年金の成り立ち|年金制度改革の切り札として誕生

確定拠出年金は、2001年10月に「確定拠出年金法」として施行された比較的新しい制度です。

当時の日本は、少子高齢化による年金財政の悪化や、適格退職年金制度の問題点が顕在化していました。従来の年金制度は企業が運用リスクを負う仕組みでしたが、長期的な低金利と株価低迷により、多くの企業で積立不足が深刻化していたのです。

こうした背景の中で、アメリカの401(k)プランをモデルに導入されたのが確定拠出年金です。従業員が自ら運用を行うことで、企業は予期せぬ追加拠出のリスクから解放され、従業員は自分のニーズに応じた資産形成ができるようになりました。

導入当初は馴染みが薄い制度でしたが、現在(2025年7月時点)の加入者数は、企業型DCで約860万人、個人型DC(iDeCo)で約370万人を超え、日本の年金制度の重要な柱となっています。

確定拠出年金の種類|企業型と個人型の違い

確定拠出年金には、企業が実施する「企業型DC」と個人が加入する「個人型DC(iDeCo)」の2種類があります。

企業型DCの特徴

企業型DCは、企業が従業員のために実施する制度です。

企業が掛金を拠出し、従業員が運用商品を選んで資産を形成します。企業が制度設計を行い、投資教育も企業の義務となります。

個人型DC(iDeCo)の特徴

iDeCoは、個人が金融機関に申し込んで加入する制度です。

掛金も個人が拠出し、運営管理機関も自分で選びます。

掛金限度額の違い

2024年12月の制度改正により、確定拠出年金の掛金限度額の仕組みが大幅に変わりました。

現在の掛金限度額(2024年12月1日以降)

加入者区分企業型DCiDeCo
第1号被保険者(自営業者等)加入不可月額68,000円
第2号被保険者(他の企業年金なし)月額55,000円月額23,000円
第2号被保険者(他の企業年金あり)月額55,000円-他制度掛金相当額月額20,000円※
第2号被保険者(公務員等)加入不可月額20,000円※
第3号被保険者(専業主婦等)加入不可月額23,000円

※企業型DCと合わせて月額55,000円が上限

重要な変更点2024年12月の制度改正により、他の企業年金がある場合の企業型DCの掛金限度額は「月額55,000円-他制度掛金相当額」となりました。これにより、従来一律27,500円だった上限が、実際の他制度の掛金に応じて個別に決まるようになっています。

また、iDeCoについても、DB等の他制度に加入している場合の掛金上限が12,000円から20,000円に引き上げられました。

企業型DCとiDeCoを同時加入する場合は、両制度の掛金合計が月額55,000円の範囲内である必要があります。

確定拠出年金の仕組み|お金の流れと運用方法

確定拠出年金の仕組みは、それほど複雑ではありません。基本的には以下の3段階です。

  1. 拠出段階:企業または個人が毎月一定額を拠出
  2. 運用段階:加入者が運用商品を選択し、資産を運用
  3. 給付段階:60歳以降に一時金または年金で受給

この3つの段階すべてで税制優遇があるのが、確定拠出年金の大きな魅力です。

運用商品の種類

確定拠出年金で選べる運用商品は、大きく2つに分かれます。

元本保証型商品

定期預金や保険商品は、元本割れのリスクがなく安心ですが、低金利環境では資産が増えにくく、長期的なインフレにより実質価値が減少するリスクがあります。

  • 定期預金:銀行の定期預金と同じ仕組みで、元本と利息が保証される
  • 保険商品:生命保険会社が提供する積立利率保証型などの商品

投資信託

長期的な成長が期待できるため、インフレにも対応できますが、市場環境の変動により元本割れのリスクがあります。

  • 国内株式型:日本の株式に投資する商品(日経225、TOPIX連動型など)
  • 海外株式型:米国、欧州、新興国などの株式に投資する商品
  • 国内債券型:日本の国債や社債に投資する安定志向の商品
  • 海外債券型:外国の債券に投資、為替リスクもある商品
  • バランス型:株式と債券を組み合わせた商品で、初心者にも選びやすい

商品選択のポイント

年齢や投資経験に応じて、元本保証型と投資信託を組み合わせることが重要です。

一般的には、若い時期は株式中心で積極運用し、退職が近づくにつれて債券や元本保証型の比率を高める「ライフサイクル投資」が推奨されています。

また、「コスト」も重要なポイントです。投資信託には信託報酬(年率0.1%~2.0%程度)がかかるため、同じような商品であれば手数料の安い商品を選ぶことで、長期的な運用成果に大きな差が生まれます。

資産配分変更、積立金の受け取り

個人別管理資産

従来の年金制度が、社会全体で年金資産を管理するのに対し、確定拠出年金は、個人ごとに年金資産が明確に区別されて管理されます。

運用状況はインターネットで随時確認できます。

配分変更とスイッチング

また、「配分変更」や「スイッチング」により、市場環境の変化やライフステージに応じて運用方針を調整できる柔軟性があります。

  • スイッチング:既に積み立てた資産(残高)の運用商品を変更すること
  • 配分変更:毎月の掛金で購入する運用商品やその比率を変更すること

なお、積み立てた資産は、原則60歳まで引き出しができないため、老後資金以外の目的では利用できません。

企業・従業員のメリット・デメリット

企業にとってのメリット・デメリット

メリット

確定拠出年金の企業側の最大のメリットは、予算管理がしやすいことです。

確定給付の制度では運用成果が悪いと追加拠出が必要になりますが、DCでは毎月の掛金額が確定しているため、将来の負担を簡単に予測できます。

税制面でも大きなメリットがあります。

拠出した掛金は全額損金算入が可能で、例えば従業員50名で月額1万円ずつ拠出した場合、年間600万円の掛金に対して約180万円(税率30%の場合)の法人税軽減効果があります。

また、退職時に一度に大きな資金が必要になる退職一時金制度と比べて、毎月定額の拠出なのでキャッシュフロー管理もしやすくなります。

デメリット

投資教育の実施義務は企業にとって新たな負担となります。確定拠出年金法により、加入時と継続時の投資教育が義務づけられており、外部講師の手配や教材の準備が必要です。

運営管理機関への手数料も継続的に発生し、従業員サポートの負担も見逃せません。

従業員にとってのメリット・デメリット

メリット

従業員にとって最も魅力的なのはポータビリティの高さです。

転職時も積み立てた資産をそのまま次の会社に持ち運べるため、転職によって退職金が大幅に減ってしまうリスクがありません。

税制優遇も非常に手厚く設計されています。

3段階の税制優遇

  1. 拠出時:掛金は全額所得控除(年間最大66万円)
  2. 運用時:運用益は非課税
  3. 受給時:退職所得控除または公的年金等控除を適用

例えば、年収500万円の人が月額2万円拠出した場合、所得税・住民税合わせて年間約4.8万円の節税効果が見込めます。

iDeCo公式サイト:かんたん税制優遇シミュレーション

デメリット

最大のデメリットは運用リスクを自分で負うことです。投資の結果次第では、拠出元本を下回る可能性もあります。

投資知識が不足していると、適切な商品選択ができず、「せっかくの制度なのに思ったように増えない」ということにもなりかねません。

また、60歳まで引き出せない制約があるため、住宅購入や教育費など、急な資金需要に対応できません。

投資教育の重要性

確定拠出年金で最も重要で、かつ最も軽視されがちなのが投資教育です。制度の成功は、従業員の金融リテラシー向上にかかっていると言っても過言ではありません。

法律で義務化されている投資教育

企業型DCを導入する企業には、確定拠出年金法により投資教育の実施が義務づけられています。加入時の教育は必須で、継続教育も努力義務となっています。

効果的な投資教育のポイント

効果的な投資教育には、基礎的な投資概念(リスクとリターンの関係、分散投資の重要性)から、実践的な商品選択のポイント(年齢に応じた資産配分、コストの重要性)まで含める必要があります。

実際、多くの企業で「加入時に説明を受けたきり、その後は放置」という従業員が少なくありません。継続的な学習機会の提供が制度成功の鍵となります。

デフォルト商品の重要性

2018年の法改正により、商品を選択しない場合に自動的に購入される「デフォルト商品」の設定が義務化されました。

従来は元本保証型商品がデフォルトに設定されることが多かったのですが、長期的なインフレリスクを考えると、バランス型の投資信託を設定する企業が増えています。多くの加入者がそのまま運用を続ける可能性が高いため、デフォルト商品の選定は非常に重要です。

導入時の注意点

運営管理機関の選び方

運営管理機関(金融機関)の選択は、制度の成否を左右する重要なポイントです。単純に手数料の安さだけで選ぶのではなく、商品ラインナップ、サービス品質、投資教育支援、実績と安定性を総合的に評価しましょう。

商品ラインナップの設定方法

商品選択肢の数は「多すぎず少なすぎず」バランスが重要です。選択肢が多すぎると従業員が混乱し、なかなか決められないこともあります。全体で15~25本程度、各資産クラスごとに2~3本ずつバランス良く配置しましょう。

投資教育の整備と計画的実施

DCを実施する企業には、継続的な投資教育を実施する努力義務が課せられています。現在、多くの企業がDCの投資教育を実施していますが、以下のような課題も指摘されています。

  • 参加意欲のばらつき: 投資への関心が高い従業員は積極的に参加しますが、無関心な層へのアプローチが難しい
  • 内容の画一性: すべての世代や知識レベルに合わせた教育が難しい
  • 継続性の問題: 導入時の教育だけで終わってしまい、継続的なフォローアップが不足しがち

そのため、eラーニングや動画コンテンツの活用、年代や職種に応じた内容の提供など、より効果的で、加入者一人ひとりに寄り添った投資教育を行う必要があります。

企業型DCと他の退職金制度との比較

比較項目企業型DC確定給付企業年金(DB)中退共
運用リスク従業員企業なし
ポータビリティ高い制限あり制限あり
拠出額の決定企業が決定企業が決定企業が決定
投資教育必須不要不要
役員の加入可能可能不可
社会保険料軽減なしなしなし
受け取り時期60歳以降退職時退職時

DCが向いている企業

  • 従業員の金融リテラシーが高い企業(IT企業など)
  • 転職者が多い業界(DCのポータビリティが活かせる)
  • 将来の退職金債務を確定させたい企業
  • 投資教育に積極的に取り組める企業

DCが向いていない企業

  • 従業員の平均年齢が高い企業(運用期間が短い)
  • 投資教育のリソースが不足している企業
  • 従業員が安定志向の企業(運用リスクを嫌う)

【参考】選択制DC|従業員のニーズに応える給与連動設計

近年、確定拠出年金の新しい活用方法として「選択制DC」が注目されています。これは従来の企業拠出だけではなく、従業員が自分の給与の一部を拠出に回す仕組みです。

選択制DCの仕組みと効果

選択制DCでは、従業員が「今の手取りを重視する」か「将来の資産形成を重視する」かを自由に選択できます。企業は新たな負担をすることなく、従業員に資産形成の機会を提供できます。

副次的効果として、拠出分だけ給与が下がるため、社会保険料の軽減効果もあります。例えば、月給35万円の従業員がDC拠出3万円を選択し、標準報酬月額が下がった場合、年間約14万円程度の社会保険料軽減(会社+本人)が期待できます。

ただし、標準報酬月額の減少により、社会保障給付も減少することになりますので、従業員への丁寧な説明が必要です。

選択制DB「YUKINつみたてDBプラン」との違い

選択制DCは、DC制度の一種です。当然に従業員が運用リスクを負うため、投資知識が不足していると思ったような成果が得られない可能性があります。

また、積立金は60歳以降でないと受け取ることができません。

一方、選択制DB制度である「YUKINつみたてDBプラン」は、運用リスクを従業員が負わず、60歳を待たずに積立金を受け取ることのできるため、選択制DCの課題を解決した制度として注目されています。

まとめ|自社に合った制度選択が成功の鍵

確定拠出年金(DC)は、転職が当たり前になった現代の働き方にマッチした退職金制度です。

企業にとっては将来負担の予測可能性と税制優遇、従業員にとってはポータビリティと手厚い税制優遇というメリットがあります。

一方で、従業員が運用リスクを負うため、投資教育の充実が不可欠です。

DCが向いているのは、従業員の金融リテラシーが比較的高く、転職者が多い業界、将来の退職金債務を確定させたい企業などです。

2024年12月の制度改正により、掛金限度額の仕組みが大幅に見直され、より柔軟で公平な制度となりました。重要なのは、自社の従業員のニーズや企業の方針に合った制度を選択することです。

DCだけでなく、DB、中退共、YUKINなど様々な選択肢がある中で、それぞれの特徴を理解して最適な組み合わせを見つけることが、退職金制度成功の鍵となります。

YUKINつみたてDBプラン

YUKINつみたてDBプラン

選択制退職金制度で従業員の資産形成を柔軟にサポート。企業の負担を抑えながら、従業員一人一人が自分に合った資産形成を選択できる制度です。

よくあるご質問

  • 企業型DCを導入できる企業の条件は?

    企業型DCに法的な規模の制限はありません。
    従業員1名から導入できるものもあります。実際に導入を検討する企業型DCの導入要件を確認しましょう。

  • 従業員が投資に詳しくない場合はどうすれば?

    投資知識がない従業員が多い場合こそ、投資教育が重要になります。
    初回教育の充実、継続教育の定期実施、デフォルト商品をバランス型ファンドに設定することで対応できます。

  • 既存の退職金制度との併用は可能?

    可能です。多くの企業で、既存の退職一時金制度や中退共と併用されています。
    2024年12月の制度改正により、他の企業年金との併用時の掛金限度額も柔軟になりました。