【第2回】なぜ離職率が高いの?退職金制度と人材定着の関係を先輩に聞いてみた

離職の現実を目の当たりに

「え…また?」

月曜の朝、出社してメールを開いた瞬間、思わず声が出ちゃいました。

営業部のエースと言われてた30代の男性社員から、退職願のメールが人事部に届いてたんです。先月も優秀なエンジニアが辞めたばかりなのに…。

人事部に来て2ヶ月。少しずつ仕事にも慣れてきた頃だけど、こんなに頻繁に退職者が出るなんて思ってもみなかった。

「はぁ…」とため息をついてたら、隣の席からサキ先輩が声をかけてくれました。

【サキ先輩吹き出し】「ユキちゃん、ため息ついてどうしたの?」

サキ先輩は人事部3年目の女性。いつも的確なアドバイスをくれる、私の頼れるメンターです。黒髪のショートヘアがよく似合う、仕事のできる先輩。

「また退職者が出て…最近多くないですか?うちの会社、何か問題があるんでしょうか?」

サキ先輩は優しく微笑んで、「ランチでも食べながら、ゆっくり話そうか」と言ってくれました。

社員食堂で、サキ先輩から聞いた話は衝撃的でした。

「実はね、うちの会社の離職率、IT業界の平均よりかなり高いのよ」

【ユキ吹き出し】「え!?そうなんですか?」

「前に社長から調査を頼まれて計算したんだけど、年間離職率が18%程度。IT業界の平均が12.8%だから、5ポイント以上も高いのよ」

「それで…最近辞めた人たちの退職理由を見ると、『福利厚生が充実してない』とか『退職金制度がない』って声が結構あったの」

なるほど!先月、社長が「退職金制度を検討したい」って言ってた理由はこれだったのか…。

中小企業の離職率の実態|業界平均を上回る現実

サキ先輩の話を聞いて、離職率についてもっと詳しく知りたくなりました。

業界別・企業規模別の離職率データ

まず、厚生労働省のデータを調べてみました。

📊 産業別離職率(令和5年)

産業離職率
生活関連サービス業,娯楽業28.1%
宿泊業,飲食サービス業26.6%
サービス業(他に分類されないもの)23.1%
情報通信業12.8%
金融業,保険業10.5%
製造業9.7%

出典: 厚生労働省「令和5年雇用動向調査」(2024年)

うちの会社はIT企業だから情報通信業。業界平均が12.8%に対して、うちは18%…かなり高い!

さらに、一般的に企業規模が小さいほど離職率が高い傾向があることも知られています。大企業と比べて中小企業では、福利厚生や給与水準、キャリアパスの選択肢などで差があることが影響しているとされています。

うちの会社は従業員150人の中小企業。IT業界の平均と比べて離職率が5ポイント以上も高いのは、明らかに対策が必要なサインですね。

離職がもたらす企業への影響

サキ先輩に、離職が会社に与える影響について教えてもらいました。

「ユキちゃん、一人が辞めるとどんなコストがかかるか知ってる?」

「えーっと…求人広告費とかですか?」

「それだけじゃないのよ。採用コスト、教育コスト、それに既存メンバーへの負担増加…」

サキ先輩がホワイトボードに書いてくれた数字を見て驚きました。

離職に伴うコスト(年収400万円の社員の場合) ※一般的に言われている目安

項目金額の目安
採用コスト(求人広告、人材紹介等)60~150万円
教育・研修コスト50~100万円
戦力化までの機会損失100~200万円
合計210~450万円

「つまり、一人辞めると最低でも200万円以上の損失。一般的には、年収の半分から1倍のコストがかかると言われているのよ」

【ユキ吹き出し】「そんなにかかるんですか!?」

「だから、離職率を下げることは経営的にもすごく重要なの」

離職理由の本音|なぜ優秀な人材が辞めていくのか

じゃあ、なんでみんな辞めちゃうんだろう?

サキ先輩が、厚生労働省の調査データを見せてくれました。

退職理由ランキングと実態

転職入職者が前職を辞めた理由(令和5年雇用動向調査)

男性の離職理由TOP5

  1. ・定年・契約期間の満了(16.9%)
  2. ・その他の個人的理由(17.3%)
  3. ・職場の人間関係が好ましくなかった(9.1%)
  4. ・給料等収入が少なかった(8.2%)
  5. ・労働時間、休日等の労働条件が悪かった(8.1%)

女性の離職理由TOP

  1. ・その他の個人的理由(25.1%)
  2. ・職場の人間関係が好ましくなかった(13.0%)
  3. ・労働時間、休日等の労働条件が悪かった(11.1%)
  4. ・給料等収入が少なかった(7.1%)
  5. ・仕事の内容に興味を持てなかった(5.0%)

出典: 厚生労働省「令和5年雇動向調査」(2024年)

「なるほど、人間関係や労働条件、給与への不満が上位なのね」

サキ先輩がペンを取って、ホワイトボードに書き始めました。

「じゃあ、うちの会社の場合はどうなのかしら?最近辞めた人たちの退職面談を思い出してみると…」

「営業部の30代の男性は『将来が不安』って言ってたわよね」

「そうそう!エンジニアの人は『他社からもっと良い条件でオファーが来た』って」

「あと、経理部の女性は『退職金制度がないから、老後が心配』って言ってたような…」

サキ先輩がまとめてくれました。

「うちの会社の特徴として考えられるのは…

  • ・IT業界特有の人材流動性の高さ
  • ・中小企業ゆえの福利厚生の弱さ
  • ・退職金制度がないことによる将来不安

この3つが大きそうね」

確かに、一般的な統計と照らし合わせても、うちの会社特有の課題が見えてきた気がする。

世代別の離職理由の違い

「私の経験から言うと、世代によって辞める理由って結構違うのよ」とサキ先輩。

「20代の若手は『もっと成長したい』とか『給与が低い』って理由が多い気がする。30代になると家族ができて『もっと安定した会社に』って転職する人が増えるし、40代以降は健康面や会社の将来性を心配する声が聞こえてくるわ」

「なるほど、だから最近辞めた営業部の30代の人も…」

「そう、きっと家族のことを考えて、より安定した環境を求めたのかもしれないわね。特に30代って、子供の教育費とか住宅ローンとか、お金のことを真剣に考え始める時期だから」

サキ先輩が続けました。

「退職金制度がないって、30代以降の社員にとっては結構不安要素なのよ。20代の頃は気にしなくても、家族ができると『老後は大丈夫かな』って考えるようになるから」

確かに、私もまだ24歳だから老後のことなんてピンとこないけど、10年後には違う考えになってるのかも…。

退職金制度が離職率に与える影響|データで見る相関関係

ここで気になったのが、退職金制度があると本当に離職率が下がるのか?ということ。

退職金制度の有無による離職率の差

調査データを探してみたら、興味深い傾向を発見!

労働政策研究・研修機構(JILPT)が2019年に実施した調査によると、離職率が低い企業ほど退職金制度を導入している傾向が明確に表れていました。

退職金制度の導入率と離職率の関係

・離職率10%未満の企業:退職金制度導入率 約88%
・離職率10-20%の企業:退職金制度導入率 約82%
・離職率20%以上の企業:退職金制度導入率 約70%

出典: 労働政策研究・研修機構「企業における退職金等の状況や財形貯蓄の活用状況に関する実態調査」(2019年)

「ほら見て!」

私が画面を指差すと、サキ先輩も興味深そうに覗き込みました。

「退職金制度の有無と離職率に直接スポットを当てた調査は少ないけど、こういうデータを見ると、やっぱり関連性はありそうよね」

「そうですよね!離職率が低い会社ほど退職金制度を導入してるってことは、退職金制度が人材定着に貢献してる可能性が高いってことですよね」

「ただし、因果関係は慎重に見る必要があるわ。もしかしたら、経営が安定してる企業が退職金制度も導入できて、同時に離職率も低いという可能性もあるから」

なるほど、データの読み方も大事なんだ。でも、少なくとも退職金制度と低い離職率には相関関係があることは確かみたい。

福利厚生充実度と従業員満足度の関係

さらに、福利厚生と従業員満足度の関係についても調べてみました。

労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査によると、「会社の福利厚生制度に満足している」従業員ほど、「現在の会社に勤め続けたい」と回答する割合が高いことがわかりました。逆に福利厚生制度に不満足な場合、「勤め続けたくない」の割合が顕著に高くなっているそうです。

出典: 労働政策研究・研修機構「企業における福利厚生施策の実態に関する調査」(2020年)

「これ見て!福利厚生の満足度と定着意向って、すごく関係があるんですね」

「そうよ。特に退職金制度は『将来への安心感』につながる重要な福利厚生の一つ。退職金があるって知ってるだけで、従業員の安心感は全然違うと思うわ」

サキ先輩が続けました。

「私の知り合いの会社でも、退職金制度を導入してから『会社が自分たちの将来を考えてくれている』って声が増えたって聞いたことがあるの。数字では表しにくいけど、心理的な安心感って大きいのよね」

確かに、私も退職金制度がある会社の方が、なんとなく安心できる気がする。それは将来の生活設計が立てやすくなるからかもしれない。

退職金制度導入による離職防止効果

「実際に退職金制度を導入して離職率が改善した会社ってあるんですか?」

私の質問に、サキ先輩はニッコリ。

「前に人事交流会で聞いた話なんだけどね、従業員200人くらいのIT企業で、退職金制度を導入して大きく改善したケースがあったの」

サキ先輩がメモを取りながら説明してくれました。

「その会社、導入前は年間離職率が16%くらいだったらしいんだけど、確定拠出年金を導入して2年後には11%まで下がったって。採用コストも大幅に削減できたみたい」

「へー!5ポイントも下がったんですか?」

「そう。ただね、これは退職金制度だけの効果じゃないと思うの。同時に評価制度の見直しとか、働き方改革とか、いろんな施策を組み合わせた結果だと思うわ」

「なるほど…退職金制度は重要な要素の一つだけど、それだけじゃないんですね」

「そういうこと。でも、退職金制度の導入が『会社が本気で従業員のことを考えている』っていうメッセージになって、他の施策の効果も高めたんじゃないかな」

サキ先輩の話を聞いて、退職金制度の導入は単なる制度の追加じゃなくて、会社の姿勢を示す重要なメッセージなんだなって思いました。

退職金制度導入の心理的効果

「退職金制度の効果って、お金だけじゃないのよ」とサキ先輩。

心理的な効果として、

  1. <帰属意識の向上>
    • 「会社が自分の将来を考えてくれている」という安心感
    • 長期的な関係を前提とした信頼感

  2. <転職の心理的ハードル>
    • 勤続年数で増える退職金を失いたくない
    • 「あと数年頑張れば…」という気持ち

  3. <企業への信頼感>
    • 「しっかりした会社」というイメージ
    • 家族からの安心感

「特に30代以降の社員には効果が大きいわ。家族に『うちの会社、退職金もあるんだ』って言えるのは大きいのよ」

【ユキ吹き出し】「退職金制度って、会社の人材戦略の重要な柱なんだ!」

確かに、私も友達に「退職金ある?」って聞かれて、「ない…」って答えるのちょっと恥ずかしかったもんなぁ。

人材定着のための退職金制度設計|効果的な制度の作り方

「じゃあ、どんな退職金制度を作れば効果的なんですか?」

私の質問に、サキ先輩は考えながら答えてくれました。

勤続年数によるインセンティブ設計

「退職金制度の基本的な考え方として、勤続年数に応じて支給額が増える仕組みがあるのよ」

サキ先輩がホワイトボードに簡単な表を書いてくれました。

「例えばこんな感じ」

従来型の退職金カーブの一例

勤続年数退職金係数(例)
3年未満0.5
3-5年1.0
5-10年1.5
10-15年2.0
15-20年2.5
20年以上3.0

「これはあくまで一例だけど、昔からある終身雇用を前提とした設計ね。最初の3年は少なめにして、5年、10年と節目で大きく増やしていく」

「なるほど…でも今の時代、20年以上同じ会社にいる人って少なくないですか?」

「そう!いいところに気づいたわね。実は最近は、もっと短期間でもメリットを感じられる設計にする企業も増えてるの。転職が当たり前の時代だから、3年、5年でもある程度の退職金が出るようにしないと、人材確保の観点でも不利になっちゃうのよ」

「確かに、20年後の退職金より、5年後にもらえる金額の方が現実的ですよね」

「そうそう。特にIT業界みたいに人材の流動性が高い業界では、従来型の設計だけじゃなくて、時代に合わせた柔軟な制度設計が必要なのよ。実際の係数は会社によって全然違うから、うちの会社に合った設計を考えないとね」

従業員のライフステージに合わせた制度

さらに、ライフステージも考慮すべきとのこと。

「年代によって求めるものも違うのよ。例えばこんな感じかな」

年代別のニーズ(例)

  • 20代:将来への投資(確定拠出年金が人気)
  • 30代:家族の安心(確定給付企業年金が安心)
  • 40代:老後資金の確実な準備
  • 50代:受給方法の選択肢(一時金or年金)

「もちろんこれも一例で、人によって全然違うけどね。20代でも安定志向の人もいるし、50代でも投資に積極的な人もいる」

「確かに、みんな一律じゃないですよね」

「全員一律じゃなくて、選択肢があると良いのよね。従業員が自分のライフプランに合わせて選べるような制度が理想的」

選択制の退職金制度…これも今後調べてみる価値がありそう!

今日の宿題|自社の離職率とコストを計算してみる

ランチから戻って、サキ先輩が言いました。

「ユキちゃん、宿題出すね。うちの会社の正確な離職率を確認して、それによる損失コストを計算してみて」

「わかりました!実際の数字を見てみないとですね」

離職率の計算方法

・サキ先輩が教えてくれた計算式

離職率 = (期間中の離職者数 ÷ 期初の従業員数) × 100

・過去1年間のデータ

  • 期初従業員数:150名
  • 離職者数:27名

離職率 = 27 ÷ 150 × 100 = 18%

やっぱり18%!サキ先輩の言ってた通りだ。

離職によるコスト試算

次に、離職によるコストを計算。保守的に下限で見積もってみよう。

当社の離職コスト試算(年間)

項目1人あたりコスト合計金額
離職者数27名
採用コスト60万円1,620万円
教育コスト50万円1,350万円
機会損失(推定)100万円2,700万円
合計損失5,670万円

保守的に見積もっても年間5,670万円…これは大変な金額だ。

でももし、離職率が業界平均の12.8%まで下がったら…

  • 離職者:27名 → 19名(▲8名)
  • コスト削減:8名 × 210万円 = 1,680万円

これだけで年間1,680万円は削減できる可能性があるんだ!

まとめ:人材定着の大切さを実感|人事2ヶ月目の学び

人事部に来て2ヶ月。今日サキ先輩から教わったことで、退職金制度の重要性が本当によくわかりました。

今日学んだこと

  • ✅業界平均の離職率は12.8%(情報通信業)
  • ✅離職による損失は1人あたり最低でも210万円
  • ✅退職金制度がある企業は離職率が低い傾向がある(JILPTデータ)
  • ✅福利厚生の満足度と定着意向には相関関係がある
  • ✅世代によって退職金制度に求めるものが違う

社長に報告する資料を作らなきゃ。

でも、うちの会社の具体的な数字(離職率18%、年間損失5,670万円)はあくまで私の試算だから、正確なデータは経理部や人事データベースで確認が必要だね。

まずは以下をまとめよう。

  • ・業界の離職率データと退職金制度の関係
  • ・離職コストの一般的な考え方
  • ・退職金制度導入のメリット(定着率向上の可能性)

もし本当に離職率が下がれば大きなコスト削減につながる可能性があるけど、それは導入してみないとわからない。

でも、少なくとも検討する価値は十分にありそう!

これをまとめて、明日の朝一番に報告しよう。

【サキ先輩吹き出し】「次のランチで、各制度の詳しい違いを教えてあげるね」

「ありがとうございます!」

サキ先輩との約束もできたし、次回はもっと具体的な制度について学べそう。

確定給付企業年金(DB)、確定拠出年金(DC)、中退共…それぞれどんな特徴があるんだろう?

うちの会社(IT企業、従業員150人)にはどの制度が最適なのか、しっかり比較検討しないと。

人事の仕事、思ってた以上に奥が深い。

でも、従業員みんなが安心して長く働ける環境を作るって、すごくやりがいのある仕事だと思う。

がんばろう!

プロフィール

名前: ユキ(YUKI)
年齢: 24歳(第1回スタート時)
所属: IT企業 人事部(従業員150名規模)

中小企業の人事担当者として、従業員の幸せと会社の成長を両立させる制度づくりに挑戦中


【ご注意】 本記事は、中小企業の人事担当者「ユキ」の成長を描いたフィクションです。登場する企業名、人物、具体的な数値変化の事例などは、説明をわかりやすくするための創作です。

ただし、以下の情報は実際のデータに基づいています:

  • 厚生労働省等の公的機関の統計データ
  • 退職金制度の仕組みや種類
  • 法令・税制に関する情報

実際の効果は企業の規模、業種、地域、その他の要因により異なります。退職金制度の導入を検討される際は、専門家にご相談の上、自社の状況に応じた制度設計を行ってください。

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よくあるご質問

  • 退職金制度だけで離職は防げる?

    退職金制度だけですべて解決するわけではありません。ただし、「将来への安心感」という重要な要素を提供することで、他の施策と組み合わせることで大きな効果を発揮します。

  • 中小企業でも離職コストはそんなにかかるの?

    採用や教育のコストは、企業の裁量次第である程度抑えることができます。
    無料の求人媒体を利用するなど、工夫次第でコストを低く抑えることも可能です。
    ただし、中小企業では一人が抜けた穴を埋めるのが大企業より困難で、既存社員への負担も大きくなります。
    このような観点から考えると、高い離職率によるリスクは中小企業の方がむしろ大きいと言えるでしょう。

  • 若手社員にも退職金制度は魅力的?

    20代では即効性のある給与アップの方が魅力的に感じられることもあります。
    ただし、「しっかりした会社」というイメージや、将来設計を考え始めた時の安心材料として、採用時のアピールポイントになります。