【第5回】退職金制度の節税効果とは?法人税削減と損金算入の計算方法

退職金制度の節税効果を経理部門で検証

「退職金制度って、節税になるって聞いたんですけど…」

人事部に配属されてから、退職金制度について色々調べてきた私。制度の種類も導入費用も大体わかってきた。でも、社長が一番気にしているのは、きっと「で、いくら節税できるの?」ということだと思う。

いろんな資料を見ると「退職金は節税効果が高い」って書いてある。でも、どういう仕組みでなぜ節税になるのか、正直よくわからない…。

思い切って、経理部のベテランさんに相談することにしました。

人事部から歩いて30秒の経理部。いつも静かで、電卓を叩く音とキーボードの音だけが響いています。

「すみません、退職金制度の節税効果について教えていただけませんか?」

経理部のベテランさんが振り返ってくれました。眼鏡の奥から鋭い視線、でも口元は優しそう。

「ユキさんね。退職金制度の件、社長から聞いてるよ。節税効果を知りたいんでしょ?」

「はい!退職金が節税になるって聞くんですけど、実際どういうことなのか、仕組みがよくわからなくて…」

ベテランさんは微笑んで、隣の席を指差しました。

「なるほどね。確かに最初は分かりにくいよね。じゃあ、基本から説明するよ。座って」

退職金掛金の損金算入とは|法人税削減の仕組み

ホワイトボードを引き寄せて、ペンを手に取るベテランさん。

「退職金が節税になるって言われる理由はね、退職金の掛金が『損金』として扱えるからなんだ」

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損金?それって何ですか?

「うん、会社の利益に税金がかかるのは知ってるよね?」

「はい、法人税ですよね」

「そう。で、その利益を計算する時に、売上から差し引けるものがあるんだ。それが『損金』。簡単に言えば、税金計算上の経費みたいなもの」

「普通の経費と何が違うんですか?」

「いい質問。実は会計上の経費でも、税務上は損金として認められないものがあるんだ。例えば交際費は限度額があったり、役員賞与は事前届出が必要だったり。でも退職金掛金の場合は、全額が損金として認められる。これが大きいんだよ」

「退職金の掛金を払うと、その金額が損金になる。つまり、利益が減ったことになって、結果的に税金が安くなるんだ」

損金算入の基本メカニズム

ベテランさんがホワイトボードに図を描き始めました。

「例えば、うちの会社で考えてみよう。仮に税引前利益が1,000万円あったとする」

退職金制度導入前

税引前利益:1,000万円
法人税(30%):300万円
税引後利益:700万円

「これが普通の状態。で、退職金制度を導入して年間360万円の掛金を払うとする」

退職金制度導入後

税引前利益:1,000万円
退職金掛金(損金):▲360万円
課税所得:640万円
法人税(30%):192万円
税引後利益:448万円

「ほら、法人税が300万円から192万円に減った。差額は108万円」

「えっ、108万円も税金が安くなるんですか!?」

「そう。掛金360万円の30%、つまり108万円が節税効果。実質的な負担は252万円ってことになる」

法人税率による節税効果の違い

「ただし、法人税率は会社の規模や所得によって変わるから注意が必要だよ」

法人税等の実効税率(2024年現在)

区分税率適用条件
中小法人(軽減税率)約23%資本金1億円以下、所得800万円以下
中小法人(通常)約30%資本金1億円以下、所得800万円超
大法人約30%資本金1億円超

※実効税率(法人税、地方法人税、法人住民税、事業税等を含む) ※詳細は国税庁「法人税の税率」をご確認ください。

「うちは資本金5,000万円で、所得は800万円を超えてるから、実効税率は約30%。だから掛金の30%が節税効果になるんだ」

法人税の節税額シミュレーション|段階導入での効果試算

「じゃあ、具体的にシミュレーションしてみようか」

ベテランさんがExcelを開いて、数字を入力し始めました。

掛金パターン別の節税シミュレーション

「いくつかのパターンで計算してみるね。少額スタート、中間、本格導入…どれがいいかは会社の状況次第だから」

前提条件

  • 従業員数:150名
  • 実効税率:30%

年間節税効果の比較

パターン月額/人年間掛金節税額実質負担実質負担率
少額スタート2,000円360万円108万円252万円70%
中間プラン5,000円900万円270万円630万円70%
本格導入10,000円1,800万円540万円1,260万円70%

「どのパターンでも、実質負担率は70%。掛金の30%が節税効果で返ってくる計算になるね」

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月2,000円でも年間108万円の節税…意外と大きいんだ!

「そうなんだよ。小さく始めても節税効果はきちんとある。あとは会社の資金繰りと相談だね」

中退共の助成金を含めた実質負担

「中退共なら、さらに助成金があるから実質負担はもっと下がるよ」

中退共新規加入時(掛金月額5,000円、150名)

初年度の計算:
掛金総額:5,000円 × 150名 × 12ヶ月 = 900万円
助成金額:2,500円 × 150名 × 12ヶ月 = 450万円
節税額:900万円 × 30% = 270万円
実質負担:900万円 - 450万円 - 270万円 = 180万円

実質負担率:20%(180万円 ÷ 900万円)

「初年度だけだけど、実質負担が20%まで下がる。これはかなりお得だよね」

※中退共の助成金制度の詳細は独立行政法人勤労者退職金共済機構でご確認いただけます。

各制度別の節税効果|DB・DC・中退共・退職一時金の比較

「退職金制度って4種類あるって勉強したんですけど、節税効果は同じなんですか?」

「基本的には同じだけど、微妙な違いがあるんだ」

制度別の税務上の取り扱い

1. 確定給付企業年金(DB)

  • 掛金:全額損金算入
  • タイミング:拠出時に即座に損金化
  • 特徴:外部積立なので明確

2. 確定拠出年金(DC)

  • 掛金:全額損金算入
  • タイミング:拠出時に即座に損金化
  • 上限:月額55,000円/人

3. 中小企業退職金共済(中退共)

  • 掛金:全額損金算入
  • タイミング:拠出時に即座に損金化
  • 上限:月額30,000円/人
  • 特典:新規加入時の助成金あり

4. 退職一時金制度

  • 社内引当:一定の要件を満たせば損金算入
  • タイミング:引当時または支払時
  • 注意:税務上の取り扱いが複雑

「退職一時金だけちょっと複雑なんだ。実際に退職金を支払った時に損金になるのが基本。だから、DBやDC、中退共の方が節税面では分かりやすいね」

キャッシュフローと資金繰りへの影響|節税効果実現のタイミング

「ただし、大事な注意点がある。節税効果はあくまで『後から』実現するものなんだ」

節税効果とキャッシュフローのタイムラグ

「どういうことですか?」

「例えば、4月に掛金を払い始めたとする。でも、法人税が安くなるのは決算後、つまり翌年の5月以降。この時差を理解してないと、資金繰りで困ることになる」

資金の流れ(3月決算の場合)

4月~3月:掛金支払い(毎月現金が出ていく)
翌年3月:決算
翌年5月:法人税納付(この時点で節税効果が実現)

「つまり、最初の1年間は掛金を100%自己資金で賄う必要があるんだ」

資金繰り改善のポイント

「でも、工夫次第で負担は軽減できるよ」

1. 少額からスタート

  • 初年度は月1,000~2,000円程度から
  • 資金繰りを見ながら段階的に増額

2. 中退共の助成金活用

  • 初年度は掛金の半額が助成される
  • 実質的なキャッシュアウトを削減

3. 決算期を考慮したスタート時期

  • 決算の翌月から開始すれば、節税効果の実現が早い

「特に中退共の助成金は大きいね。資金繰りが厳しい中小企業には助かるよ」

退職金掛金の会計処理|仕訳と勘定科目の実務

「節税効果はわかったんですけど、実際の経理処理ってどうなるんですか?」

「ああ、そうだね。実務も知っておいた方がいいね」

ベテランさんが実際の会計ソフトの画面を見せてくれました。

掛金支払時の仕訳処理

「まず、掛金を支払った時の仕訳から説明するね」

確定給付企業年金(DB)・確定拠出年金(DC)の場合

(借方)福利厚生費 450,000 / (貸方)普通預金 450,000
※月額3,000円×150名の掛金支払い時

中小企業退職金共済(中退共)の場合

(借方)福利厚生費 450,000 / (貸方)普通預金 450,000
※処理は同じだが、振込先が中退共機構

「勘定科目は『福利厚生費』か『法定福利費』を使うことが多い。うちは福利厚生費で処理してるよ」

消費税の取り扱い

「重要なのが消費税。退職金掛金は非課税なんだ」

消費税処理のポイント

  • 退職金掛金:非課税
  • 運営管理機関への手数料:課税
  • 振込手数料:課税

「会計ソフトで入力する時は、税区分を『非課税』に設定するのを忘れずに」

退職金制度の損金算入要件|税務調査で否認されないために

「ところで、退職金掛金を損金算入するには要件があるんだ」

ベテランさんの表情が少し真剣になりました。

損金算入の基本要件

必須要件のチェックリスト

  1. 退職金規程の整備
    • 就業規則への記載または別規程
    • 支給基準の明確化
    • 労働基準監督署への届出(10名以上の事業所)
    • ※規程作成は厚生労働省「モデル就業規則」が参考になります
  2. 合理性の要件
    • 同業他社と比較して著しく高額でない
    • 役員と従業員で著しい格差がない
    • 恣意的な運用をしていない
  3. 掛金の支払い実績
    • 継続的な支払い
    • 規程通りの金額
    • 全従業員への公平な適用

「特に重要なのが退職金規程。これがないと、損金算入が認められない可能性があるんだ」

税務調査での指摘事例

「去年、税務調査が入った時の話をするね」

実際に確認された項目

  1. 規程と実態の整合性
    • 「パート社員の掛金支払いが確認できません」
    • →規程の見直しが必要に
  2. 加入者名簿の確認
    • 「この10名の雇用実態を確認させてください」
    • →出勤簿、給与台帳との突合
  3. 掛金の計算根拠
    • 「掛金額の決定根拠を説明してください」
    • →算定基準の文書化が必要

「結局、問題なかったけど、書類の準備は大変だったよ」

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税務調査って怖そう…きちんと準備しないと

経理部門から見た退職金制度導入の実務ポイント

話も終盤に差し掛かり、ベテランさんが総括してくれました。

「節税効果は確かに大きい。でも、経理の立場から言うと、実務的な準備も大切なんだ」

導入前の準備チェックリスト

経理部門の事前準備

  • [1] 会計ソフトの勘定科目設定
  • [2] 予算への組み込み
  • [3] 資金繰り表の更新
  • [4] 銀行への事前説明
  • [5] 税理士への相談
  • [6] 社労士との連携確認

月次資金計画の立て方

「資金繰り表も作っておいた方がいいよ」

退職金掛金導入後の月次資金繰り(単位:万円)

項目4月5月6月3月翌5月
掛金支出△30△30△30△30
法人税減少+108
実質影響△30△30△30△30+108

「最初の1年は掛金の100%が出ていくけど、2年目以降は前年分の節税効果が返ってくるから、実質70%の負担で済むようになるよ」

よくあるトラブルと対処法

実際にあったトラブル事例

  1. 振込ミス
    • 問題:金額を間違えて振込
    • 対処:翌月で調整、運営機関に連絡
  2. 加入漏れ
    • 問題:新入社員の手続き忘れ
    • 対処:遡及加入の手続き
  3. 規程との不整合
    • 問題:パート社員の取り扱い
    • 対処:規程改定で対応

「トラブルは起きるものだから、迅速に対処することが大事」

退職金制度の節税メリットまとめ|社長への報告準備

経理部のベテランさんには、本当にたくさんのことを教えてもらいました。

「最後に、社長への報告資料を作るなら、これを入れるといいよ」

社長向け報告資料のポイント

節税効果の要点整理

  1. 具体的な節税額
    • 年間掛金360万円→節税額108万円(実効税率30%)
    • 5年間累計:節税額1,458万円
    • 中退共なら初年度実質負担20%
  2. キャッシュフローへの影響
    • 初年度は100%持ち出し
    • 2年目以降は節税効果で負担軽減
    • 段階的導入で資金繰り配慮
  3. 実施上の留意点
    • 退職金規程の整備が必須
    • 税務調査への備え
    • 経理処理の適正化

「数字の裏付けがあれば、社長も判断しやすいはずだよ」

「ありがとうございます!本当に勉強になりました」

人事部に戻る道すがら、頭の中を整理します。

退職金制度の節税効果は確かに大きい。年間100万円以上の節税は、中小企業にとって無視できない金額だ。でも同時に、資金繰りへの影響や実務的な準備も重要だということがよくわかった。

社長への報告資料も、節税効果を中心に、実務面の注意点も含めて作ろう。経理部のベテランさんに教えてもらったことを活かして、説得力のある資料を作りたい。

でも、ふと思う。従業員のみんなは、退職金制度についてどう思ってるんだろう?節税効果は会社にとってのメリットだけど、従業員にとってのメリットは?

今度は、従業員の声も集めてみよう。特に同業他社がどんな制度を導入してるのか、それによって従業員満足度がどう変わるのか…。

節税効果という「会社のメリット」と、将来への安心という「従業員のメリット」。両方をバランスよく実現できる制度を作りたい。

そのためにも、もっと勉強しなきゃ!

プロフィール

名前: ユキ
年齢: 24歳(第1回スタート時)
所属: IT企業 人事部(従業員150名規模)

中小企業の人事担当者として、従業員の幸せと会社の成長を両立させる制度づくりに挑戦中


【ご注意】 本記事は、中小企業の人事担当者「ユキ」の成長を描いたフィクションです。登場する企業名、人物、具体的な数値変化の事例などは、説明をわかりやすくするための創作です。

ただし、以下の情報は実際のデータに基づいています:

  • 法人税率と実効税率
  • 退職金制度の損金算入要件
  • 税務上の取り扱い
  • 中退共の助成金制度

実際の効果は企業の規模、業種、地域、その他の要因により異なります。退職金制度の導入を検討される際は、税理士・社労士等の専門家にご相談の上、自社の状況に応じた制度設計を行ってください。

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よくあるご質問

  • 節税効果ってなに?

    退職金掛金は全額損金算入できるため、法人税率分(約23-30%)の節税効果があります。
    ただし、キャッシュフローとしては決算後に実現するため、資金繰りの計画は必要です。

  • 税務調査で指摘されやすいポイントは?

    ①退職金規程の未整備
    ②加入者の実在性
    ③掛金の合理性

    が主な指摘事項です。規程整備と適切な文書管理が重要です。

  • 中退共の助成金と節税効果は両方受けられる?

    両方受けられます。
    助成金(約1年間)で実質的な掛金負担が減り、さらに支払った掛金全額が損金算入できます。