役員退職金を徹底解説

役員退職金とは?|計算方法・税金・手取りシミュレーションを解説

役員退職金は、一般の従業員の退職金と比べて、計算方法も税務上の取り扱いも異なる部分が多くあります。

「適正な金額はいくらか」

「いつ損金に落とせるか」

「手取りはどれくらいになるのか」

これらをきちんと把握していないまま退任を迎えると、税務リスクや想定外の税負担につながることがあります。

この記事では、役員退職金にまつわる計算方法・税金の仕組みを整理します。概要を正確に理解したうえで、自社の準備状況を見直す材料にしてください。

役員退職金は「普通の退職金」と何が違うのか

役員退職金が一般の退職金と異なる主なポイントは以下の3点です。

  • ・支給の根拠が異なる
    従業員の退職金は就業規則・退職金規程に基づきますが、役員退職金は株主総会の決議が必要です。取締役会の決議だけでは不十分で、株主総会で具体的な金額を決議するか、株主総会で取締役会への一任を決議したうえで取締役会が決定する必要があります。
  • ・「適正額」の基準がある
    役員退職金は税務上「不相当に高額」な部分は損金算入が認められません。適正額の算定に、後述する功績倍率法が広く用いられます。
  • ・受け取り側の税務が特殊
    役員の在任年数が5年以下か超かによって、税負担が大きく変わります。この点は一般の退職金にはない役員特有のルールです。

役員退職金の計算方法|功績倍率法とは

役員退職金の「適正額」を算定する方法として、実務上最も広く使われているのが功績倍率法です。

  • 計算式
    役員退職金の適正額 = 最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率

各要素の考え方

最終報酬月額

退任直前の役員報酬月額です。退任直前に急激に増額した場合、税務調査で問題になるケースがあるため注意が必要です(詳細は後述)。

役員在任年数

役員として在任した年数です。勤続年数の数え方については次のセクションで詳しく説明します。

功績倍率

役員の会社への貢献度を示す倍率です。税務上の目安として、社長(代表取締役)は3.0、専務・常務は2.0〜2.4、取締役は1.5〜2.0が広く採用されています。ただし法律で定められた数値ではなく、過去の裁判例を踏まえた実務上の目安です。

  • ◆計算例
    最終報酬月額100万円・在任20年・社長(功績倍率3.0)の場合
  • 100万円 × 20年 × 3.0 = 6,000万円

勤続年数の数え方|税務上の注意点

役員退職金における「勤続年数」は、退職所得控除の計算に直接影響するため、正確な数え方を把握しておく必要があります。

端数は切り上げ

勤続年数に1年未満の端数がある場合、1年に切り上げて計算します。

例:勤続年数10年2ヶ月 → 11年として計算

出典:国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」

従業員期間と役員期間の合算

多くの場合、役員就任前に従業員として勤務している期間があります。この場合、従業員期間と役員期間を合算した年数が退職所得控除の計算に使う勤続年数となります。

役員期間が5年以下かどうかは別途確認が必要

「特定役員退職手当等」に該当するかどうかの判定では、役員として勤務した期間のみを抽出して計算します(従業員期間は含めない)。役員期間が5年以下の場合、通常の2分の1課税が適用されず税負担が重くなります。

損金算入のルール|いつ・いくらまで落とせるか

損金算入できる時期

役員退職金の損金算入時期は、原則として株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度です。

ただし、法人が退職金を実際に支払った事業年度に損金経理をした場合は、その支払った事業年度に損金算入することも認められます。

注意点として、取締役会で内定した金額を未払金として計上しても、確定前の段階では損金算入できません。また、退職年金として支給する場合は、各年金を支給すべき事業年度が損金算入時期となります。

出典:国税庁「No.5208 役員の退職金の損金算入時期」

損金算入できる金額の上限

「適正な額」までが損金算入の対象です。適正額の判断には功績倍率法が用いられ、「不相当に高額」と判断された部分は損金不算入となります。

役員退職金にかかる税金|退職所得控除と2分の1課税

役員退職金は受け取る側では「退職所得」として課税されます。退職所得は給与所得や事業所得と比べて税制上の優遇が手厚く設計されています。ただし、役員には特有のルールがあります。

退職所得の計算式(原則)

  • 退職所得の金額 =(収入金額 - 退職所得控除額)× 1/2

退職所得控除額の計算

勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円 × 勤続年数(最低80万円)
20年超800万円 + 70万円 ×(勤続年数− 20年)
  • ◆計算例
    勤続年数20年:40万円 × 20年 = 800万円
    勤続年数30年:800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円

役員特有のルール:「特定役員退職手当等」

役員として勤務した期間が5年以下の場合、その退職金は「特定役員退職手当等」に該当し、2分の1課税が適用されません

つまり、通常であれば課税対象は(退職金 − 控除額)× 1/2ですが、勤続年数が5年以下の役員は(退職金 − 控除額)の全額が課税対象となります。

なお、ここでいう「役員等勤続年数」は、従業員として勤務した期間を含めず、役員として勤務した期間のみを計算します。

退職所得は分離課税

退職所得は他の所得と合算せず、分離課税として計算します。給与所得が高い役員でも、退職所得は独立して税率が計算されるため、累進課税の影響を受けにくい設計になっています。

シミュレーション|役員報酬・勤続年数別の手取り試算

国税庁の計算式をもとに、具体的なケースで試算します。

前提条件

  • ・社長(代表取締役)、功績倍率3.0
  • ・勤続年数は従業員期間を含む合計年数
  • ・役員としての在任年数が5年超(2分の1課税が適用される)
  • ・所得税・住民税の計算は概算(復興特別所得税は除く)

ケース①:最終報酬月額80万円・勤続30年の場合

項目金額
退職金額7,200万
退職所得控除1,500万
課税退職所得2,850万
所得税・住民税(概算)約1,145万
手取り概算約6,055万

ケース②:最終報酬月額100万円・勤続20年の場合

項目金額
退職金額6,000万
退職所得控除800万
課税退職所得2,600万
所得税・住民税(概算)約1,020万
手取り概算約4,980万

ケース③:最終報酬月額50万円・勤続15年の場合

項目金額
退職金額2,250万
退職所得控除600万
課税退職所得825万
所得税・住民税(概算)約209万
手取り概算約2,041万

シミュレーションのポイント

  • ・勤続年数が長いほど控除額が拡大する
    20年超からは1年ごとに70万円控除が増えるため、長く在任するほど税効率が上がります。
  • ・2分の1課税の効果が大きい
    課税対象が半分になるため、通常の給与所得と比べて税負担は大幅に軽くなります。
  • ・役員としての在任が5年以下の場合は注意
    2分の1課税が適用されず、税負担が跳ね上がります。

役員が活用できる退職金制度一覧

役員退職金の原資をどう準備するかは、制度選択が重要です。主な選択肢を紹介します。

YUKINつみたてDBプラン

確定給付企業年金(DB)の仕組みを活用した選択制退職金制度です。厚生年金被保険者であれば役員も加入でき、拠出した掛金は全額損金算入、受取時は退職所得として扱われます。

特徴

  • ・拠出上限が給与の20%(上限月30万円)と大きく、役員報酬が高い経営者ほど積立効果が出やすい
  • ・元本保証型の運用で、積立金が減るリスクが限りなく少ない
  • ・退職時・休職時に受け取ることができ、柔軟性が高い
  • ・会社の掛金負担ゼロで導入できる
  • ・副次的な効果として、法定福利費(社会保険料)の削減効果が生じる場合がある

注意点

  • ・厚生年金被保険者であることが加入条件(加入は任意)

YUKINの詳細についてはこちらをご覧ください。⇩

小規模企業共済

特徴

  • ・掛金は月1,000円〜70,000円(500円単位)で設定でき、全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除になる
  • ・受取時は退職所得または公的年金等控除が適用される
  • ・低コストで個人として積み立てられる

注意点

  • ・加入できるのは常時使用する従業員が一定数以下の小規模企業の役員に限られる
  • ・損金算入ではなく個人の所得控除のため、法人税の節税効果はない
  • ・任意解約の場合、元本割れのリスクがある

小規模企業共済の詳細についてはこちらをご覧ください。⇩

税務調査で指摘されやすいパターン

役員退職金は税務調査でチェックされやすい項目の一つです。以下のパターンは特に注意が必要です。

退任直前に役員報酬を急増させている

功績倍率法の「最終報酬月額」を引き上げるために、退任直前に役員報酬を大幅に増額するケースです。税務上「実態のない報酬増額」と判断されると、増額前の報酬月額を基準に適正額が算定される可能性があります。

功績倍率が高すぎる

社長の功績倍率として3.0が目安とされていますが、これを大幅に上回る設定は「不相当に高額」と判断されるリスクがあります。過去の裁判例では、功績倍率3.0を超える部分について損金不算入とされた事例があります。

特別功労金の上乗せが過大

退職金に「特別功労金」を上乗せすること自体は認められていますが、合理的な根拠なく大きな金額を加算すると、税務調査で否認されるリスクがあります。

退任の実態がない「分掌変更」

代表取締役から取締役に役職が変わった時点で退職金を支給するケースです。実態として経営の支配権や責任に大きな変化がない場合、「退職」とは認められず退職金の損金算入が否定されることがあります。

まとめ

役員退職金は、一般の退職金と比べて計算・税務の両面でルールが複雑です。要点を整理すると以下の通りです。

  • ・適正額の算定には功績倍率法(最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率)が広く使われる
  • ・損金算入できる時期は株主総会の決議等によって退職金の額が確定した事業年度(支払事業年度での損金経理も可)
  • ・受け取り側では退職所得控除2分の1課税により税負担が大幅に軽減される
  • ・役員在任期間が5年以下の場合は2分の1課税の適用がなく税負担が重くなる
  • ・勤続年数の端数は切り上げで計算する
  • ・税務調査では退任直前の報酬急増・高すぎる功績倍率などが指摘されやすい

退職金の原資をどう準備するかは、制度選択と積立期間が結果を大きく左右します。役員として現役のうちから計画的に準備を進めることが、税務上も財務上も合理的な選択です。

YUKINつみたてDBプラン

YUKINつみたてDBプラン

会社の掛金負担ゼロで導入できる、中小企業向けの選択制退職金制度です。社会保険料の削減効果もあり、企業・従業員の双方にメリットがあります。

よくあるご質問

  • 功績倍率に法律上の上限はありますか?

    法律で数値が定められているわけではありません。ただし、過去の裁判例では社長の功績倍率として3.0が合理的な上限の目安として参照されています。3.0を大幅に超える設定は税務調査で問題になるリスクがあります。

  • 役員退職金は株主総会の特別決議が必要ですか?

    原則として普通決議で足ります。ただし、定款で別途定めている場合はそれに従う必要があります。

  • 退職所得控除を使い切れない場合はどうなりますか?

    退職金額が退職所得控除額を下回る場合、課税退職所得はゼロとなり、退職金に対して所得税・住民税はかかりません。

  • 役員が従業員を兼務していた期間は勤続年数に含まれますか?

    退職所得控除の計算では、従業員期間と役員期間を合算した年数を使います。ただし、従業員退職時にすでに退職金を受け取っている場合は確認が必要です。

資料ダウンロード オンラインで相談する