iDeCo+(イデコプラス)とは?|中小企業向け退職金制度の新選択肢を徹底解説
「iDeCoは聞いたことがあるけれど、iDeCo+は何が違うの?」
中小企業の経営者・人事担当者から、こうした疑問をよく耳にします。
iDeCo+(イデコプラス)は、2018年に創設された比較的新しい制度で、中小企業が従業員の資産形成を後押しできる仕組みです。会社として退職金制度を整えたいが、まだ何も導入していないという企業にとって、導入のハードルが低い選択肢の一つとして注目されています。
この記事では、iDeCo+の仕組みから導入要件・メリット・デメリット・注意点まで、導入を検討する上で知っておくべきことをまとめました。
目次
iDeCo+とは何か
iDeCoとiDeCo+の違い
まず、iDeCo(個人型確定拠出年金)とiDeCo+の違いを整理しておきましょう。
「iDeCo」は、個人が自ら掛金を拠出して運用する私的年金制度です。会社員・自営業者・専業主婦など、幅広い人が個人として加入できます。
一方で「iDeCo+」は、iDeCoに加入している従業員の掛金に、会社(事業主)が追加で掛金を上乗せできる制度です。正式名称は「中小事業主掛金納付制度」といいます。個人の資産形成制度であるiDeCoを、会社としても支援できる仕組みと理解するとわかりやすいです。
つまり、iDeCo+はiDeCoを「会社と従業員で一緒に積み立てる」ための制度です。
制度の仕組み
iDeCo+の基本的な仕組みは次のとおりです。
従業員が個人でiDeCoに加入した上で、会社(事業主)が追加の掛金を上乗せして拠出します。従業員の掛金と会社の掛金はまとめて事業主が取りまとめて納付する形になります。
なお、従業員の掛金は給与天引きで控除項目として処理されます。給与支給額自体は変わらないため、社会保険料の算定基礎となる標準報酬月額には影響しません。
運用は従業員本人が行い、受け取りは原則60歳以降となります。iDeCoの枠組みをそのまま活用するため、従業員が転職しても積み立てた資産を継続できるポータビリティの高さも特徴です。
出典:iDeCo+(イデコプラス)のご案内(厚生労働省)
iDeCo+の導入要件
対象となる企業
iDeCo+を導入できる企業には、以下の要件があります。
- ① 企業年金を実施していないこと
企業型確定拠出年金(企業型DC)・確定給付企業年金(DB)・厚生年金基金のいずれも実施していない企業であること。すでに企業年金を持っている場合は対象外となります。 - ② 従業員数が300人以下であること
ここでいう従業員とは、厚生年金被保険者を指します。2020年10月に従来の100人以下から300人以下に拡大されました。 - ③ 労使合意があること
事業主が掛金を拠出する場合、および掛金額を変更する場合には、労使合意が必要です。
対象となる従業員
iDeCo+の上乗せ掛金の対象となるのは、iDeCoに加入している従業員のうち、事業主掛金の拠出に同意した者です。
つまり、iDeCoに加入していない従業員は対象外となります。「会社としてiDeCo+を導入したが、iDeCoに加入していない社員には適用できない」という点は、事前に従業員に周知しておく必要があります。
掛金の設定ルール
掛金の設定にはルールがあります。
- ・事業主掛金と加入者掛金(従業員の掛金)の合計額は月額5,000円以上23,000円以下
- ・それぞれ1,000円単位で設定可能
- ・一定の資格(勤続年数・職種など)ごとに掛金額を変えることも可能
例えば、従業員が月額10,000円のiDeCo掛金を拠出している場合、会社が上乗せできるのは最大13,000円(23,000円-10,000円)までとなります。
なお、2026年12月1日施行予定の制度改正により、iDeCoの拠出限度額が引き上げられる予定です。第2号加入者(会社員)については、企業年金の有無による差異が解消され、月額6.2万円に一本化・引き上げとなる見込みです。これにより、iDeCo+における合計拠出限度額も変更となる可能性があります。導入・運用にあたっては最新情報をご確認ください。
出典:iDeCo・企業型DC・国民年金基金の拠出限度額の引き上げ(2026年12月1日施行予定)(厚生労働省)
iDeCo+導入の流れ
iDeCo+の導入にあたって、事業主が行う手続きの流れはおおむね以下のとおりです。
STEP① 導入要件の確認
企業年金を実施していないか、従業員(厚生年金被保険者)が300人以下かを確認します。
STEP② 拠出対象者・掛金の設定
iDeCoに加入している従業員のうち、事業主掛金を拠出する対象者を設定します。勤続年数・職種など一定の資格を設けて対象者を絞ることも可能です。掛金は加入者掛金(従業員の掛金)と合わせて月額5,000円以上23,000円以下の範囲で1,000円単位で決定します。
STEP③ 労使合意・従業員への同意取得
iDeCo+の実施について、厚生年金被保険者の過半数を代表する者から労使合意を得ます。その後、拠出対象となる従業員に実施内容を通知し、個別に同意を得ます。
STEP④ 事業主の事前登録・手続き
iDeCo+を導入する際は、あらかじめ「事業主払込」用の登録事業所番号を取得しておく必要があります。従業員への周知や手続き期間を考慮して制度開始時期を決定します。
STEP⑤ 従業員の手続き
新たにiDeCoに加入する従業員は、自身で運営管理機関(金融機関)に「個人型年金加入申出書」を提出します。すでにiDeCoに加入している従業員は、掛金の払込方法を「事業主払込」に変更する手続きが必要です。
STEP⑥ 書類の作成・届出
掛金の拠出開始月の前月20日までに、国民年金基金連合会に届出書類を提出します。提出が遅れると制度開始が遅くなるため、余裕を持って手続きを進めることが重要です。
出典:iDeCo+導入の流れ(iDeCo公式サイト)
iDeCo+のメリット
会社側のメリット
- ・事業主掛金は全額損金算入できる
会社が拠出する掛金は全額損金として算入されます。福利厚生費として費用計上でき、税務上の処理もシンプルです。 - ・既存のiDeCoを活用するため、新たな制度設計が不要
企業型DCや確定給付型の年金制度を一から設計・導入するのに比べて、iDeCo+は既存のiDeCoの枠組みをそのまま活用できます。導入に向けた制度設計の手間が少なく、比較的スムーズに始められます。 - ・従業員の自主的な資産形成を後押しできる
iDeCoに自ら加入している従業員は、資産形成への意識が高い層です。そうした従業員の取り組みを会社として支援できるため、エンゲージメントの向上につながります。
従業員側のメリット
- ・会社の上乗せ分だけ積立額が増える
自分の掛金に会社の掛金が上乗せされるため、同じ期間でより多くの資産を積み立てることができます。 - ・加入者掛金は全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象
従業員自身の掛金は引き続き全額所得控除の対象となるため、税負担の軽減効果も継続されます。 - ・転職しても積み立てた資産を継続できる
iDeCoの枠組みを活用しているため、転職先に企業年金がある場合でも一定の条件のもとで資産を移換できます。
iDeCo+のデメリット・注意点
この制度にはメリットがある一方で、導入前に把握しておくべき注意点もあります。
iDeCoに加入していない従業員には適用できない
iDeCo+の最大の制約は、従業員がiDeCoに加入していることが前提という点です。加入していない従業員には上乗せ拠出ができないため、会社として全従業員をカバーする退職金制度としては機能しません。
「退職金制度を整備したい」という目的でiDeCo+を導入しても、iDeCoに加入していない従業員が多い場合は制度の恩恵が届かない可能性があります。
受け取りは原則60歳以降に限定される
iDeCoの性質上、積み立てた資産は原則60歳まで受け取ることができません。育休・介護休業などで休職した際に使いたいと思っても、すぐに引き出すことはできません。
労使合意の手続きが必要
掛金を設定・変更する際には労使合意が必要です。手続きを経ずに変更はできないため、一定の事務負担が生じます。
従業員の運用リスクを会社がコントロールできない
iDeCo+では、運用は従業員本人が行います。会社は掛金を拠出するだけで、運用成果に関与できません。元本割れのリスクは従業員が負うことになるため、金融リテラシーの低い従業員には不向きな面もあります。
iDeCo+が向いている会社・向いていない会社
向いている会社
- ・従業員数が300人以下で、企業年金をまだ導入していない
- ・iDeCoに自主的に加入している従業員が多い
- ・従業員の自主的な資産形成を支援したい
- ・企業型DCを導入するほどの規模・コストをかけられない
- ・従業員の金融リテラシーが比較的高い
向いていない会社
- ・全従業員を対象とした退職金制度を整備したい
- ・短期退職や休職時の備えとして使える制度が必要
- ・従業員にiDeCoの加入を促す余力がない
- ・運用リスクを従業員に負わせたくない
YUKINという選択肢との違い
iDeCo+と似た文脈でよく比較されるのが、YUKINつみたてDBプランです。主な違いを簡単に整理します。
| 比較項目 | iDeCo+ | YUKINつみたてDBプラン |
|---|---|---|
| 加入の前提 | iDeCo加入が必要 | 厚生年金被保険者であること |
| 会社の掛金負担 | あり | 原則なし |
| 掛金の給与処理 | 控除項目 (給与支給額変わらず) | 支給項目から差し引き |
| 社会保険料への影響 | なし | あり(副次的な軽減効果) |
| 元本保証 | なし(運用次第) | あり |
| 受取可能時期 | 原則60歳以降 | 退職時・休職時 |
| 役員加入 | 可 | 可 |
「全員に退職金制度を整えたい」「休職中の備えにもなる制度がほしい」という場合はYUKINが、「iDeCoに取り組んでいる従業員を会社として応援したい」という場合はiDeCo+が向いています。
他制度との詳細比較は【YUKINと他制度の違い】をご覧ください。⇩
まとめ
iDeCo+(イデコプラス)は、企業年金を実施していない従業員300人以下の中小企業が、iDeCoに加入している従業員の掛金に会社として上乗せできる制度です。
メリットは、事業主掛金の全額損金算入・既存のiDeCoを活用した手軽な導入・従業員の自主的な資産形成の後押しです。
デメリット・注意点は、iDeCoに加入していない従業員には適用できない・受け取りが原則60歳以降に限定される・労使合意が必要・運用リスクを従業員が負うという点です。
「まず退職金制度の第一歩を踏み出したい」という企業には選択肢の一つになりますが、全従業員をカバーしたい場合や、休職中の備えも含めた制度を整えたい場合は、他の制度も合わせて検討することをおすすめします。
退職金制度の選び方はこちらをご覧ください。⇩

YUKINつみたてDBプラン
会社の掛金負担ゼロで導入できる、中小企業向けの選択制退職金制度です。社会保険料の削減効果もあり、企業・従業員の双方にメリットがあります。
【監修】今鶴 慶一朗
ゆうきん企業年金基金 常務理事
株式会社ステラパートナー 執行役員
中小企業の退職金制度の設計・導入支援に携わり、選択制確定給付企業年金(YUKINつみたてDBプラン)の普及を通じて、従業員の資産形成と企業の人材戦略を支援
よくあるご質問
iDeCo+を導入すると、すべての従業員が対象になりますか?
いいえ。iDeCoに加入している従業員のうち、事業主掛金の拠出に同意した者が対象です。iDeCoに加入していない従業員には適用できません。
iDeCo+を導入した後に企業型DCやYUKINを導入することはできますか?
iDeCo+は「企業年金を実施していないこと」が要件のため、YUKINなどの企業年金を後から導入するとiDeCo+の要件を満たさなくなり、継続できなくなります。将来的な制度の拡充も考慮した上で選択することが重要です。
中退共とiDeCo+は併用できますか?
中退共はiDeCo+の導入要件である「企業年金」には該当しないため、中退共とiDeCo+を併用することは可能です。
従業員がiDeCoに加入していない場合、iDeCo+導入のために会社側でできることはありますか?
会社としてiDeCo+の説明会を開催したり、iDeCoへの加入を促したりすることはできます。ただし、iDeCoへの加入は個人の判断に委ねられるため、強制することはできません。












