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食料品の消費税1%が企業に与える影響|賃金と人材の課題

2027年4月から2年間実施される予定の食料品消費税1%化は、会計システムや価格表示への対応だけでなく、2029年の税率復帰を見据えた賃金・人材戦略にも大きく関わってきます。

物価高や最低賃金の上昇が続くなかでの今回の税制改正が、企業にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

本記事では、食料品消費税1%化が賃金へ波及する可能性と、持続的に人件費を負担できる企業体質をつくるための人材活用の考え方を整理します。

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食料品の消費税1%へ引き下げ

制度の概要と実施時期

政府は2026年8月5日に「給付付き税額控除」の制度導入の基本方針を閣議決定しました。

その後、国と地方による協議を経て、2026年9月15日の臨時閣議で「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」が閣議決定されています。

制度設計は正式に決定されましたが、実際に税率を変更するには消費税法等の改正法案が国会で成立する必要があります。

項目内容
対象軽減税率の対象となっている飲食料品(酒類・外食を除く)
税率8% → 1%
期間2027年4月1日〜2029年3月31日(2年間)
期間終了後8%に戻す方針
併せて導入就業者負担軽減支援金(所得に連動した給付)を2027年度から先行導入
2029年度以降税率を8%へ戻し、所得に連動したきめ細かな給付を本格導入
現在の状況大綱は閣議決定済み(改正法案は未成立)

国税庁 消費税率引下げ特設サイト

「つなぎ措置」としての税制改正

今回の1%への引下げは、飲食料品の消費税率を恒久的に下げる制度ではありません。

政府は2029年度から、中低所得の現役勤労者を中心に「所得に連動したきめ細かな給付」を本格導入する方針です。その制度が整うまでの経過措置として、2027年4月1日から2年間、飲食料品の消費税率を1%に引き下げる設計になっています。

さらに2027年度からは、本格制度を一部先取りする形で、飲食料品にかかる消費税1%相当分の範囲内で所得連動型の給付を導入します。政府は税率引下げとこの給付を組み合わせ、政策全体として飲食料品にかかる消費税の「実質ゼロ化」を目指しています。

制度の流れを整理すると、次のようになります。

時期飲食料品の税率家計負担を軽減する主な手段
2027〜2028年度1%税率の引下げ
2029年度以降8%所得に連動した給付

ここで押さえておきたいのは、2029年を境に、家計負担を軽くする手段が「税率」から「給付」へ移るという点です。

食料品税率の引下げは、購入金額の違いはあるものの、買い物をするすべての人に一律で効きます。一方、給付は所得に応じて対象と金額が決まります。つまり2029年を境に、全員へ同じだけ効く税率軽減から、人によって差がつく給付へと変わります。

このため2027年の負担軽減は、恒久的な生活コストの低下とは言えません。また同時に、2029年の税率復帰と給付制度がすべての従業員へ同じだけ響くとも限りません。

なお制度の目的には、「年収の壁」による働き控えの緩和も含まれています。パート・アルバイトの就業調整に課題を抱える企業にとっては、給付制度が働き方にどう影響するかも見ておきたいところです。

2029年時点の物価水準はどうなるか

税抜100円の商品なら、税率8%で108円、1%で101円となり、税率変更だけを見れば7円の差です。

ただし、当然ながら実際の店頭価格は、税率だけで決まりません。原材料費、物流費、人件費、為替などの高騰が続くなか、減税分がそのまま値下がりに反映されるとは限らず、いわゆる「便乗値上げ」が起きる可能性はあります。

物価水準そのものが動いている以上、2029年に税率が戻る際の価格が「2027年当時の価格に税率だけを戻したもの」になるとは限らず、食料品価格の上昇が続けば、税率復帰は値上がりした税抜価格に対して適用されます。

つまり消費者にとって、2年間の価格変動と税率復帰を重ねると、非常に大きな負担になる可能性があります。

食料品の減税効果を試算

総務省の家計調査によると、2025年の二人以上世帯における食料支出は前年比5.5%上昇し、月平均94,895円(税込)、酒類・外食を除き、さらに税抜き価格に直すと、今回の減税対象支出は69,026円です。

これを基準に試算すると下表のとおりです。

区分現行(8%)引下げ後(1%)差額(月額)
対象支出(税抜)69,026円69,026円
消費税5,522円690円△4,832円
対象支出(税込)74,548円69,716円△4,832円

総務省「家計調査」

つまり理論上では、二人以上世帯における食料支出平均に該当する場合の減税効果は月4,832円程度、年間では約5万8,000円程度であるといえます。

ただし、これは税抜価格が据え置かれた場合の理論上の最大値です。減税分がそのまま店頭価格へ反映されるとは限らないため、実際の効果はこれを下回る可能性はあります。

食料品の物価上昇と消費税率8%復帰のインパクト

次に、2029年時点の食料品負担(税抜)を前項同様69,026円とし、食料品の物価上昇率を年間約3%として試算します。

時点食料品物価水準(税抜)消費税率食料品支出(税込)
2027年4月69,026円1%69,716円
2028年4月71,097円(前年+3%)1%71,808円
2029年4月73,230円(前年+3%)8%79,088円

「2029年4月の食料品支出」-「2027年4月の食料品支出」

=79,088円-69,716円=9,372円

1%課税時と比べて、月約9,400円、年間では約11.2万円の負担増です。

なお、家計の補填となる「所得に連動したきめ細かな給付」は、中低所得者を対象としています。現在の制度案に関する社会保障国民会議の資料では、フルタイム平均年収540万円の50%となる年収約270万円程度で給付が終了する案が示されました。ただし給付額や所得の閾値は、年末の予算編成・税制改正の議論に持ち越されています。

仮にこの水準で線が引かれた場合、実際の給付対象は比較的低所得者のみに限定され、多くの勤労者にとっては対象外となる可能性があります。

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企業の人件費への波及

採用相場への影響

企業の賃金は、役割、能力、成果、等級制度、市場の給与相場、人材の需給、企業の支払能力などを踏まえて決定されます。

このとき、物価上昇によって実質的な購買力が低下すれば、現在の給与に対する評価や、転職時に求める給与条件に影響し、求職者が就業を受け入れる最低限の賃金水準(留保賃金)を押し上げる要因になります。

採用や定着を維持するために必要な市場賃金が上昇する圧力の発生です。

その他の賃上げ圧力

2026年春闘の最終集計では、平均賃金方式の賃上げ率は5.01%、300人未満の中小組合では4.69%でした。

2026年度の地域別最低賃金も、地方最低賃金審議会の答申ベースで全国加重平均1,177円となり、前年の1,121円から56円上昇しています。2026年7月の有効求人倍率は1.18倍で、求人が求職を上回る状態が続いています。

物価、最低賃金、人材需給、春闘相場、競合企業の採用条件。複数の要因が重なり、企業の給与水準へ圧力をかけています。

また、中途採用などで採用給与を引き上げた場合、新規採用者と既存社員の給与差が縮小する「賃金圧縮」が起こる可能性があります。

採用時の給与だけを引き上げ続けると経験や役割とのバランスが崩れるため、既存社員を含めた給与体系全体の見直しへ波及する可能性があることも大きな課題となってきます。

日本労働組合総連合会「2026春季生活闘争」

厚生労働省「全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」

厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年7月分)について」

企業の人件費と従業員の可処分所得のギャップ

企業が負担する人件費と、従業員の手取りの違いも押さえておきたいところです。

2026年度の東京都で協会けんぽに加入している場合、健康保険料率は9.85%、40〜64歳に適用される介護保険料率は1.62%、子ども・子育て支援金率は0.23%です。厚生年金保険料率は18.3%で、40〜64歳について単純に合計すると、これらの労使合計料率は30.00%となります。

協会けんぽ「都道府県毎の保険料額表」

実際の社会保険料は標準報酬月額を基礎として決まります。賃上げによって標準報酬月額の等級が上がれば、企業・従業員双方の社会保険料負担は増えます。従業員側には、さらに所得税や住民税の負担があります。

そのため、物価高等の影響を考慮し、従業員の家計を支える手当として月額10,000円を追加支給した場合、手取りとして受け取れるのは7,000円程度です。また、企業側は、その給与手当に加え、企業負担分の社会保険料が1人あたり1,500円程度生じます。

人件費11,500円(手当10,000円+企業負担分社会保険料1,500円)に対し、従業員の手取りは7,000円程度ですので、実際に従業員に届く価値は、会社が支払うコストの約60%に留まることになります。

このことから、一般的には次の関係になるといえます。

家計の負担増額 < 消費税率8%復帰・物価高をカバーする必要賃上げ額 < 企業の追加人件費

よって、採用定着の観点からも、これまで以上に人件費を継続して支払える原資を企業自身がどのように生み出すかが問題になります。

一人あたり付加価値を高めるための人材活用

消費税率、最低賃金、物価、労働市場の相場は、企業単独ではコントロールできません。一方、自社が生み出す付加価値には働きかけることができます。

厚生労働省の「労働経済の分析」では、資本金規模が大きい企業ほど労働分配率が低く、小さい企業ほど高くなる傾向が示されています。中小企業で労働分配率が高い要因の一つとして、賃上げの原資となる付加価値額が低いことが挙げられています。

同白書は、持続的な賃上げに向けては、規模の小さい企業を中心に賃金の原資となる労働生産性を高め、付加価値の向上を図ることが不可欠だとしています。

厚生労働省「令和6年版 労働経済の分析」

以降では、付加価値を高める手段の1つとして、人材に関わる部分について述べていきます。

一人あたり付加価値を高めるというと、真っ先には研修やAI導入が先に思い浮かびます。

ただし、その前に確認が必要となるのが、そもそも今の人材と業務の組み合わせで、どの程度の価値を生み出せているかです。

業務と人の関係の可視化

特に規模の小さい企業では、仕事が人に紐づきやすい傾向があります。営業力の高い社員が見積作成や請求処理まで抱えている。管理職が重要な判断だけでなく、単純な集計作業にも時間を使っている可能性があります。専門性の高い社員が、他の人でも対応できる定型業務を抱えてしまっている状態です。

こうした状態で「人が足りない」と判断して採用を増やしても、一人当たり付加価値は高まりません。教える側に余裕がないまま人が増え、人件費だけが積み上がります。

誰が、どの業務に、どれだけ時間を使っているかを確認し、属人化した業務、特定の人に集中した判断、活かされていない能力を見つけていきます。

「人手不足」なのか、「人材の使い方に改善余地がある」のか。この2つを分けて考えるところから始めましょう。

権限移譲と能力開発

例えば管理職に判断が集中している場合、管理職本人の処理速度を高めるだけでは限界があります。一定範囲の判断を担当者へ移す。若手に一段上の仕事を任せる。複数の業務を扱える人材を増やす。専門人材を専門性の高い業務へ集中させます。

能力開発は、「組織のボトルネックとなっている能力や判断を特定し、それを担える人材を増やすこと」「身につけた能力を実際に使える仕事へ配置する」ところまでが一続きです。

リソースの再配分

データ入力、検索、集計、議事録作成、定型文書の作成、一次問い合わせ対応。人が直接行う必要性の低い業務は、AIやシステムで削減できる領域が広がっています。

ただし、30時間の業務を削減しても、その30時間が別の雑務で埋まれば生産性は変わりません。

営業活動、既存顧客へのフォロー、商品・サービスの改善、後進育成。より高い価値を生む仕事へ再配置しましょう。AI導入の評価も、何時間削減できたかではなく、その時間が何を生んだかで見るべきでしょう。

人員増に頼りすぎない成長

当たり前ですが、退職者が1人出れば1人補充する。売上が10%伸びれば、人員も10%増やす。この関係が続けば、事業規模の拡大とともに人件費も同じペースで増えていきます。

事業成長に対する人員増加のペースを抑えられる体制は非常に重要です。売上が伸びても同じ割合で人員を増やさずに対応できれば、一人当たり付加価値は高まります。欠員が生じたときも、すぐ同じ職務で補充するのではなく、業務を見直して吸収できないかを検討できます。

もちろん、介護、飲食、宿泊など、人が現場にいること自体がサービス価値となる業種では限界があります。自社では何を変えられて何を変えられないのか、その線引きを行いましょう。

評価と処遇

「業務を効率化した結果、その社員に別の仕事が追加されるだけ。」

「マニュアル化や後進育成によって属人化を解消しても、その貢献が評価されない。」

「AIを使って短時間で成果を出しても、従来と同じ仕事量や労働時間だけで判断される。」

このような状況が生まれてしまった場合、従業員にとっては、改善に取り組むメリットがありません。

業務改善、標準化、後進育成、属人化の解消を、評価や処遇の中でどう扱うかについて決めておく必要があります。

人材活用の見直しが一人当たり付加価値を高め、処遇改善の原資が生まれ、採用・定着力が上がり、さらに人材へ投資できる。この循環をつくれるかどうかが、賃金上昇圧力が続く環境への対応力を左右します。

まとめ|2年間をどう活用するか

食料品の消費税率が1%へ引き下げられることで、家計負担は一時的に軽くなる可能性があります。

ただし、今回の政策は恒久的な食料品減税ではなく、2029年度には税率を8%へ戻すことになります。所得に連動した給付はありつつも、対象から外れる従業員にとっては負担増となる可能性があります。それだけでなく、物価、最低賃金、採用相場、社会保険料なども変化します。

こうした環境変化が労働市場を通じて賃金水準へ波及したとき、それを継続的に負担できるだけの収益力があるかどうかが問われることになります。

そのためには、価格設定や商品・サービスそのものの価値、設備投資、DX、事業構造などを見直すとともに、現在の人材と業務の組み合わせにも改善余地がないかを確認します。

2027年からの2年間を、一時的な負担軽減期間として捉えるだけでなく、自社の収益力や人材活用を見直す期間として使う。2029年以降も賃金上昇圧力が続くことを想定するなら、この2年間は、持続的に人件費を負担できる企業体質へ転換していくための準備期間として位置づけられます。

よくあるご質問

  • 食料品の消費税1%は、もう決まったのですか?

    2026年9月18日現在、大綱は閣議決定されましたが、法律はまだ成立していません。

    2026年8月5日に「給付付き税額控除」の制度導入の基本方針が閣議決定され、9月15日の臨時閣議で「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」が閣議決定されました。
    実際に税率を変更するには、消費税法等の改正法案が国会で成立する必要があります。

  • 減税分は、そのまま商品価格に反映されるのですか?

    反映されるかどうかは、各事業者の価格判断に委ねられます。

    消費税は事業者が納める税金であり、販売価格の決定を制度が強制する仕組みはありません。
    原材料費や物流費、人件費の高騰が続くなか、減税分がそれらの吸収に充てられる可能性もあります。
    本記事の試算は、税抜価格が据え置かれた場合の上限値です。

  • 給付は誰もが受けられるのでしょうか?

    対象者も金額も、現時点では確定していません。

    就業者負担軽減支援金は中低所得の現役勤労者を対象とする制度ですが、給付額や所得の閾値は年末の予算編成・税制改正の議論に持ち越されています。

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